身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?
 教会の入り口に、淡いグレーの布がかけられた馬車がとまっていた。華やかさとは無縁な、飾り一つない質素な扉をサイモンは開き、「どうぞ、乗ってください」とエリシアを促す。

「今日は司祭様、お一人ですか?」

 エリシアは先に乗り込むと、狭い馬車の中できょろきょろとし、向かいに腰かけるサイモンに尋ねる。

「そうです。何か気になりますか?」
「エリオンさんはいらっしゃらないんですね。ここへ連れてきてくださったお礼を言いたかったんです」
「それは気になさらず。エリオンは熱を出してしまいまして、今はゆっくり休んでいます」

 サイモンはなんでもないことのようにさらりと答える。

「熱って……まさか」
「はい。大聖堂にいる者はどうしても疫病からは逃れられません。かくいう私も、先月かかりました。なかなかシムアへ顔を出せず、申し訳ありませんでしたね」
「あっ、いえ。それは全然」

 そんな事情があったなんて知らなかった。サイモンはすっかり元気そうで、涼やかな笑顔をエリシアに向ける。
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