身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?
 エリシアは部屋に着くと、早速、アルナで手を洗い、ベッドに仰向けになるカイゼルのシャツのボタンを外した。

 よく鍛えられた胸筋がむき出しになり、エリシアは一瞬、ひるんで目をそらした。

 これまではご老人や女の人、子どもたちを看病することが多かった。男の人……まして、相手は王太子。軽々しく看病を申し出ていい相手ではなかったのではないか。

(でも、やるしかないわ。引き受けたのは私なんだもの)

 エリシアは自身を納得させてうなずくと、テキパキと衣服を脱がせ、汗ばむ身体を隅々まで洗い、ナイトローブに着替えさせた。身体がさっぱりしたのか、カイゼルはほんの少し落ち着いた表情になり、静かな眠りについた。

 そうして過ごした翌日、裏庭にあるという湧き水を運んできたビクターは、カイゼルのひたいに浮かぶ汗をぬぐうエリシアに声をかけてきた。

「いかがですか? 殿下のご様子は」
「熱はずいぶん下がってきています。もしかしたら、還炎熱ではないかもしれません」
「本当ですか?」
「はい。還炎熱は二日以上、高熱が下がることなく続く場合がほとんどです。もしかしたら、お疲れなのかもしれません」

 汗でひたいに張り付く、カイゼルの伸びた前髪を指で流しながら、エリシアはそう言う。

 身なりを整える余裕をかくような生活を送っていたのではないか。エリシアを問い詰める彼は青白い顔をしていたし、具合がよくない中でも無理して働いていたのだろう。

「殿下のもとには毎日、さまざまな報告書があがります。還炎熱が発生してからは特に報告量が増え、全ての書類に目を通すだけでも重労働ですから、連日寝る間も惜しんで働いていたのは確かです」
「そうですか……。では、何か口当たりのいい果物を食べて、よくお休みになるのが一番かもしれません」
「わかりました。メイドたちにはそのように伝えておきます。エリシアさんはどうされますか? 昨夜はよく眠れなかったでしょう?」
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