身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?
「私は大丈夫です。還炎熱ではないとはっきりするまで看させてもらいます」

 それに、カイゼルが回復してくれないと、ノアム大聖堂へ戻っていいのかもわからない。

「エリシアさんは責任感がおありになる方ですね」

 ビクターはほとほと感心するように言う。

「……いえ、私はそんな立派なものではありません」
「殿下が目覚めたら、エリシアさんがどれほど献身的に看病したか伝えますよ」
「殿下はあまり、良い顔をされないと思いますけど」

 エリシアが頼りなげに言うと、ビクターはそっと笑んで、部屋を出ていった。彼だってわかっているはずだ。カイゼルがエリシアを煙たがっていることを。

 エリシアはベッド脇にある椅子に腰掛けると、羽毛布団からはみ出したカイゼルの腕をそっとつかみ、布団の中へ戻した。そのとき、彼の指先がぴくりと動き、エリシアの指を絡めとる。

「殿下……?」

 起きたのだろうかと顔をのぞき込んでみるが、彼は涼やかな表情で眠りについている。

(少し……楽になってきたのかしら)

 手を引っ込めようとすると、絡みついた指が強く握られて、なかなか引き抜けない。エリシアは困りながら、そのまま手をつないで座っていた。しばらくすると、腕がしびれて、指先の感覚もあいまいになってきたが、少しでも動くと、カイゼルが不機嫌そうに手を握ってくるから、困り果てながら受け入れた。

 彼の手は大きく、温かかった。うわさでは冷酷な王太子だと聞いていたが、その実は国思いの生真面目な青年なのではないか。女性に見向きもしないのは、ただ単に誠実なだけで……。歳の離れた弟であるルイに向けたまなざしは慈悲にあふれていたし、そんなに悪い人ではないかもしれない。

(でも、私はそんな人に嫌われてるのよね……)

 聖女だと偽って、リビアの代わりに宮殿へ来たのだから無理はない。

(カイゼル様が目覚めたら、ちゃんとお話しよう。聞いてくれるかわからないけれど、これからの私のことを……)

 エリシアはそっと胸に誓った。
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