身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?
「不満か?」
「あ、いえっ。ユレナ王妃様にはよくしていただいて、感謝しています」
「ルイを救ったのだから、当然だ」
「私は看病しただけで……」
「俺とルイの間には、三人の兄弟がいたのだ」

 急に生真面目な表情になって、カイゼルはそう言う。

(この人は私の話を聞く気がないのかしら……)

 あきれつつ、エリシアはおずおずと尋ねる。

「三人……ですか?」
「いずれも、幼い頃に亡くなった。母上はルイが無事に生まれたとき、涙を流して喜び、それはそれは大切に育てている。ルイに何かあれば、母上は絶望するだろう。エリシアは王家の安寧に一役買ったのだ。誇りに思うがいい」

(それで、ユレナ様はルイ様に甘々だったんだわ)

「今はルイ殿下が再燃しないことを祈りましょう」
「俺はもう確信しているがな」

 カイゼルが余裕そうに言ったとき、馬車がゆっくりと止まる。フェルナ村に着いたようだ。

「殿下、村長を名乗るオルム親子が出迎えに来ております」

 ひと足先に様子を見に行っていたビクターが、馬で駆け戻ってくるなり、そう報告する。

「そうか。村の案内は必要ないが、少し話を聞こう」
「わかりました。殿下、実は……」

 ビクターはちらりとエリシアを見ると、あわれむような目をした。それほど、エリシアの表情が固く、暗かったからかもしれない。

「何だ。まだ何かあるのか?」
「実は、ガレス・オルムという男は、エリシアさんの婚約者でして」
「……ふーん、そうか」

 つまらなさそうに、カイゼルはつぶやいた。どうでもいいことなのだろう。

「お会いになりますか?」
「俺に会わない理由はない」
「まあ、そうですね。では、ご案内いたします」

 ビクターはなぜか、ちょっとおかしそうに笑うと、馬を降りて、カイゼルたちを先導した。
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