身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?



「これはこれは、王太子殿下。我がフェルナ村へようこそお越しくださいました。うわさに違わぬ見目麗しい殿下自ら、このような辺境まで足をお運びくださるとは、いかがいたしましたでしょうか?」

 村長のオルムは、顔の筋肉からすべての力を抜いたような、気味が悪いほどの笑みを浮かべてカイゼルにこびへつらった。

 彼は権力者にとても弱く、男爵の爵位を授かった父を訪ねてくるときは、いつもこのような笑顔をしていた。しかし、父の前では下手に出たこの男も、陰では「たかが異国の果物を育てたぐらいで調子に乗りおって」と、悪態をついていたのを知っている。果樹園が枯れたときも、村長は手を差し伸べてくれなかった。もし、困り果てた父をあのとき助けてくれていたら、父は死なずに済んだかもしれないのに。

「ここに、ルーゼがあると聞いてやってきた。グスタフの屋敷を調べさせてもらう」
「オルティスの家を? ルーゼはもうございません。ご存知のように、先の干ばつですべて枯れ果てたのでございます。残るは……、屋敷とは到底言えぬ小屋のみでございます」

 村長はわずかにエリシアに視線を向けると、あざ笑うかのような笑みを口の端に浮かべた。

 エリシアは怒りが湧いたが黙っていた。父は屋敷に住みたいと願うような男ではなかった。しかし、ボロ屋で暮らしていても、母と娘には苦労させないように、できる限りの贅沢をさせてくれたのだ。

「かまわない。調査は我々だけで行う。おまえたちが立ち合う必要はない」
「さようでございますか。これは私の息子、ガレスでございます。ご覧の通り、腕っぷしは強く、力仕事には頼りになります。必要とあれば、どうぞ使ってやってください」
「必要ないと言っている」
< 92 / 130 >

この作品をシェア

pagetop