それは麻薬のような愛だった
雫への想いを自覚してからの伊澄の行動は早く、それまでのくだらない縁を全て断ち切った。
元より正月以降は誰の相手をする気になれず連絡がきても無視し続けていた事もあり、拗れることなく関係は終わった。
それまでの行いを見ていた周りからは天変地異を疑われたが、自業自得だと気にする事もしなかった。
天城伊澄が一人の女の為に身も心も時間も全て投げ打って尽くすことになるなど、一体誰が予想できただろう。
だが昔に比べ連絡の頻度も会う回数も格段に増えたものの、雫の態度は何も変わらない。
相も変わらず伊澄からの誘いを拒否する事なく受け入れはするが、その目はいつだって伊澄を見ていなかった。
ならばと他の男の存在を疑い、雫の家に行く際にはその痕跡を探ってみるも見つけた事は無い。これ見よがしに私物を置いてみても嫌がる素振りも見せない。
雫が何を考えているのか分からない、そんな日々を続けているうちに気付けば大学も卒業を迎え、弁護士資格を引っ提げて社会に出ていた。
司法修習生というのはかなり忙しく、一時期は地方への配属もあったがなんとか時間を作って月に一度は必ず雫に会いに行った。
その期間を終えて都内へ戻って来てからも忙しさは変わらない。
時には休日を返上する事もあったが、それでも雫の元へ会いに行く事は辞めず、苦でもなかった。
だが伊澄の知らないうちに雫が煙草に手をつけるようになった時、酷く衝撃を受けた。
自宅で煙草を吸っていた娘を溺愛する父親に向かって「お父さんタバコ臭い、きらい!」と言い放ち、大の大人を四つん這いにさせて涙の海を作らせていたあの彼女が、と、戸惑いを隠せなかった。
自分の知らない雫が増えていく。そんな焦燥に苛まれながらも雫の本心に触れることに怯え、かといって手放す事も出来ず、有耶無耶な関係を何年も続けた。
そうしているうちに片想い期間が7年を迎えたある日、いつものように週末に雫へ連絡を入れると、とんでもない返事が返ってきた。
合コンに参加するから会えない、と。