それは麻薬のような愛だった


「明日空いてるか」


声を聞いただけで会いたくて堪らなくなった。気付いた時にはそう聞いていて、一瞬沈黙が流れた。


『…うん、空いてるよ』

「じゃあ昼頃そっち行く」

『分かった。待ってるね』


それじゃあ、そう言って電話はあっさりと切られた。そのままスマホを懐に仕舞うと、伊澄はソファの背もたれに身を預けて天を仰いだ。


「…本当、今更だな」


今更足掻こうというのか。
もう雫の心は自分に無いと言うのに。


「……」


ずっと彼女はこんな気持ちだったのだろうか。

手に入らないものに手を伸ばしても掴めず、それどころか突き放され、それでも尚ずっと僅かな期待に縋り続けてきた。


——男の傷は男で癒す。


そうなっても仕方ない。

雫に他の男が居たところで責める資格など欠片も有りはしない。

それでも今、雫がまだ自分の誘いに応えてくれるうちは、彼女を諦め離れる事など耐え難かった。


それならばみっともなく足掻いてやろうと決めた。

雫が自分を拒絶するまで。

彼女がもう一度自分を見てくれる、その一縷の望みに、みっともなく縋ったとしても。




< 140 / 215 >

この作品をシェア

pagetop