それは麻薬のような愛だった


「…っ、やだ…!いっちゃん、どこ行くの…っ」

「なっ、おい…」

「…行っちゃやだぁ…!」


腕にしがみつく雫はぼろぼろと涙を流しており、必死に伊澄にしがみついていた。


「雫、」


腰を落とし、言い聞かせるように零れ落ちる涙を拭えどそれは止まらず、雫は嗚咽しながら伊澄に抱き着いた。


「お願い。何処にも行かないで…いっちゃん…」


そのあまりにも切実な声に、伊澄の胸は痛んだ。

あの雫が脇目も振らず泣き喚き、自分を求めている。何年も何年も想いを寄せ、劣情を向けてもなお心を向けてくれなかった雫が。

狂おしい程に好きで堪らなかった雫が、求めてくれている。


瞬間、伊澄の中で弾け切れる音がした。

首元に絡まる腕を解き、そのまま唇を重ねて押し倒す。身体を押し付けながら雫の口内を余す所なく舌を這わせ、その勢いで自身の下肢を纏うものを払いのけた。

微かに残った罪悪感も理性も何もかもかなぐり捨て、伊澄は欲のままに雫の中へと突き立てた。


「雫…っ」


何度も何度も愛しい名前を呼んだ。

雫の耳に届いているかは分からない。雫はただただ嬌声を上げ、伊澄から与えられる快感に呑まれている。


「ごめん…!」


こんな言葉だけの謝罪に意味は無い。行動が伴っていない事など、伊澄が一番よく分かっていた。


「それでも…俺は、雫が、…お前だけが…——っ」


その先の言葉は雫の高い声にかき消され、宵闇の中に溶けていった。


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