それは麻薬のような愛だった
伊澄の手が静かに落ち、雫の手を握る。汗ばんだ手は、伊澄の緊張を表しているようだった。
「けど、好きなんだ。側に雫がいるのが当たり前になり過ぎて気づけなかった。…けど、雫の居ない生活は、息苦しかった」
「…いっちゃ…」
「ずっと側に居てくれ。…俺はもう、雫の居ない日々は耐えられない」
伊澄の言葉が少しずつ胸に落ちていく。ぽたぽたと、冷たくなった心を溶かすように、じんわりと胸が温かくなる。
「…本当に?」
「嘘じゃない。雫じゃねえと満たされない」
「…じゃあ、その…もうひとつ聞きたい事が、」
「言ってくれ」
「…前に言ってた…今も残してくれてる制服って…」
「……」
視線が重なる。覚えてないと嘘をついたあの日を覆す言葉に、伊澄は何を返すのだろう。
言いづらそうに言い淀む伊澄だったが、静かに言葉を発した。
「…馬鹿みてえだろ。簡単に約束反故にしておいて、今更その約束を引き摺ってるなんてよ」
「……」
「お前が好きだって自覚する前から、あれだけは手放す気にはならなかった。…手袋だって同じだ。キモいと思ってんだよ、自分でも」
「そんな、こと…」
「…雫の気持ちに甘えきって、気付こうとしてなかっただけで…俺はずっと…雫のことが大事だったんだよ」
側にいるのが当たり前過ぎて気付かなかった。好いてくれているのが当たり前だと驕っていた。伊澄はそんな言葉を続けた。
「最低だって罵ってくれていい。嫌ならもう一生雫に触れられなくていい。…ただ、側にいて欲しい」