それは麻薬のような愛だった
「幼稚園くらいか…その頃のお前って、ころころ表情がよく変わるやつだったろ。さっきまで泣いてたかと思えば急に笑いだして、忙しい奴だった」
「やっぱり馬鹿にしてるじゃん…!」
「違えわ。…ああ、そういえばあの頃にもお前と結婚するんだとか、俺が言って……」
言いながら急に黙り込んだ伊澄は考え込むように口元に手を当てる。その様子に不安が募り、雫は伊澄の袖を引いた。
「…いっちゃん?どうしたの…?」
伺うように尋ねると、伊澄はゆっくりと雫を見つめた。そして目を細めたかと思うと、同時に袖を掴む雫の手を優しく握り返した。
「…なるほどな…あん時にはもう既にって、そういう事か」
「…え?」
雫の戸惑う声に伊澄渇いた笑いを浮かべ、身を寄せて静かに雫の肩へと額を落とした。
「本当…どうしようもねえわ。雫に本気で見捨てられてたら俺、どうするつもりだったんだろうな…」
「な、何?どういう…」
「俺は最初から、お前に落ちてたって事だ」
はっきりと告げられた言葉。驚きで固まっていると、伊澄の顔が上がった。熱を含んだその視線にまたキスをされるのかと思いきや、それはゆっくりと顔の横を通り過ぎて体を抱きすくめられた。
「大事な事にも気付かずに好き勝手やって…あの頃の自分を呪い殺してえよ。…雫から離れられないのは、俺の方だった癖に」
「……」
「雫…本当にごめん。…本当に、俺を見捨てないでくれて、ありがとう」
「…そんな…」
「もう二度と間違えねえ。これからは一生、雫だけを大事にする」
伊澄の顔は見えない。彼は一体どんな顔をしているのだろう。激しく波打つ心臓の音を聞きなから、雫はそんな事を思った。
「今すぐに信じてくれなくて構わない。これから生涯をかけて証明していく。後にも先にも、愛してるのは雫だけだって」
「…いっちゃん」
「だからずっと、俺の側で見ていて欲しい」
揺るぎのない強い言葉だった。密着していた身体が離され、互いに見つめ合う。
その強い眼差しと真剣味を帯びた表情は、いつも
憧れてやまなかった、紛れもない伊澄の姿だった。