それは麻薬のような愛だった
「…なんだか、プロポーズみたい」
「否定はしない。けど、もっと雰囲気の良いところが良いならやり直す。だから…」
「ううん、そうじゃなくて…」
雫は少し前の記憶を思い出す。その時に言い放った言葉に、心苦しいものを感じた。
「…私、前に結婚願望無いって言ったなって…」
「……」
あの時言ったのは紛れもない本心だった。必要も感じなかったし、そうしたいとも思っていなかった。
「…誤解のないよう言うが、俺は子どもが出来たから結婚を言い出したわけじゃねえからな」
雫の言葉を少し違う意味で受け取った伊澄はそう言い、雫の隣に腰を下ろした。
「そもそも雫じゃなかったら俺だって結婚したいなんて思わねえ。お前がどうしてもしたくねえってなら方法は考える」
「あ、違うの…えっと、」
そこで雫は一呼吸置いた。雫のしたいようにすると言いながらもどこか不安を隠せていない伊澄に、雫の胸はちくりと痛んだ。
「その…なんて言えばいいか…。…うちの両親ってすごく仲が良いでしょ?未だにお互いのこと"くん"とか"ちゃん"付けで呼んでるし」
「そうだな」
「だから私にとって結婚って、すごく好きな人同士がするっていう感覚が強くて。だからあの時は…いっちゃんに全然好かれてないって思ってたから、だったら誰ともしたくないなって感じで…」
「……」
「い、意味分かんないよね、ごめん!だからつまり…いっちゃんが私を好きでいてくれるなら、私も…」
言いながら、伊澄がゆっくりと手を口元に当てるのが見えた。不思議に思い名前を呼べば、伊澄は何かに必死で耐えるような顔をしていた。