それは麻薬のような愛だった

「いっ、あっああ…っっ!」

「く…ッ」


雫の一際高い声と伊澄の噛み締めるそれが重なった時、伊澄もまた果てたと知る。喘ぎ続けた声は少し掠れ、互いの荒い息づかいを感じながら、雫は落ちてきた伊澄の胸元に顔を埋めた。

伝わる伊澄の鼓動は速く、それは何度耳にしても幸せな音だった。



初めての恋だった。自分がわからなくなるほどにのめり込んだ想い。それらは時を経て、愛に変わった。

雫にとっても、そして伊澄にとっても、これが最初で最後の愛になる。雫には今、その確信があった。

15年前にこの場所で始まった不安定な関係は、再びこの場所で新たな関係として始まる。

互いに確かな愛を育み、固い絆を紡ぐ関係に。


「いっちゃん…私ね、」


声をかければ伊澄が顔を上げ、優しい目が雫を見つめた。

そっと伊澄の胸元に手を当てる。瞳から伝わる熱は、歪む視界で垣間見えた伊澄の表情くらい、温かかった。


「いっちゃんを好きになって、体だけの関係になって、何度も泣いたしひどい人だって思ったことはあるよ。……でもね、」


顔を歪ませ、謝罪を口にしそうになった伊澄の口に指を当てる。


「…この場所で、いっちゃんに初めてをあげられたことだけは、一度も後悔したことは無いよ」


だって、初恋だった。

きっとこの事だけは、今のように伊澄と添い遂げる事ができなかったとしても、後悔はしなかったと思う。

ゆっくりと伊澄を引き寄せ、抱きしめる。伊澄の温もりに、微かに残っていた不安ですら溶けて消えていく感覚がした。


「…雫、ありがとう」


重ねられた唇からは涙の味がした。それがどちらの涙なのか分からないが、どうでもよかった。繋がる口には深く、雫は幸せに満ち満ちていた。

通った心はもう二度と離れはしない。


互いにに強く抱きしめ合い、深い口付けを交わして雫の瞳から零れ落ちた涙は、キラキラと輝いていた。

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