それは麻薬のような愛だった
「いっちゃん、私家出るんだ」
高校の卒業式の前日、もう登校の必要がなくなり家にいた雫に伊澄から連絡がきた。
伊澄の家に赴き、いつものようにセックスをした後、服を着ながらおもむろに雫は言った。
「県外の大学に受かったの。明日の卒業式終わったらすぐに引っ越しするから」
未だベッドに横たわったままの伊澄が起き上がり、雫は背中を向けたままシーツの布が擦れる音を聞いた。
「だから今日でおしまい」
他意はない。この関係を終わらせるには丁度いいタイミングだと思ったからそう告げた。
伊澄の返答を聞く気は無いし、きっと彼は止めてはこない。案の定伊澄は雫の着替えが終わるまで、一言も言葉を発さなかった。
服を全て身につけ、雫は部屋の入り口の前まで歩いてドアを引く。部屋を出る前に一度だけ振り返り、伊澄に向かって笑顔で手を振った。
「じゃあ元気でね、いっちゃん。お互い大学生活楽しもうね」
そう言った時ですら、何も感じなかった。その時伊澄がどんな顔をしていたのかも覚えていない。
こうして物理的に距離が離れた事で、伊澄との歪な関係は至極アッサリと幕を閉じた。
当然、第二ボタンなんてものはもう、必要無かった。