それは麻薬のような愛だった
床に正座して鞄から数学のテキストを取り出し、伊澄を待つ。
どのページだったかな、とテキストをパラパラとめくっていると伊澄が部屋に入ってきた。その手には2つペットボトルが握られており、うち1つを差し出された。
ありがとうと言い、手を伸ばして受け取ろうとした時だった。
ペットボトルは意図的に落とされ、それを持っていたはずの伊澄の手が雫の腕を掴んでいた。
「え、」
言うと同時に、視界がぐらりと揺れる。気付けば伊澄の顔とその後ろに天井が見えていた。
「いっちゃ…」
最後まで言いきる前に口は塞がれた。突然の事に理解が追いつかなかったが、自分の唇と重なっているのが伊澄のそれと同じだと分かった瞬間、雫は思い切り彼の胸を押した。
「…なんで…?」
「それはこっちの台詞だ。お前が誘ってきたんだろーが」
「誘っ…」
身体がかっと熱を帯びて言葉を詰まらせていると、伊澄の長い指が雫の露わになっていた鎖骨を撫でた。
「会うなり胸元開けて、理由つけてはノコノコ家に上がってきたのはそういうことだろ」
違うと言おうとしたのに、声が出なかった。全身が心臓にでもなったかのようにドキドキと鳴り響き、頭が真っ白になる。
沈黙を肯定と捉えたのか、伊澄の唇が首筋に落ちてきた。
「…っ、ぁっ…」
短い声が漏れて、事が進んでいくにつれて次第にその声は恥ずかしくなるくらい甘みを帯びてくる。
そうして抵抗する事なく、雫は初めて異性と身体を重ねた。