それは麻薬のような愛だった
「…まだ持ってたの?」
伊澄の雰囲気に合うようわざわざ質の良い革の素材を調達して作ったし、あわよくば少しでも長く使って欲しいという思いもあった。
けれどこれほど時が経っても尚持っているとは思わず、雫はぽかんと呆気にとられるしか出来なかった。
「……気に入ってんだよ」
伊澄は手袋をつけ、目を逸らしたまま続ける。
「あれから結局何も返せてねえから、それはこれの礼だと思っとけ」
「……」
素材もよく人気シリーズなだけあってぬいぐるみといえどそれなりにいい値段がする。所詮は高校生ごときの手作りのお返しにしては些か大袈裟すぎるし、何より今更だ。
そもそもあの時、自分はお礼なんて必要ないと返さなかっただろうか。
——あ…そうだった、
消えかけていた記憶を思い出す。
あれは丁度今のようにクリスマスの前の時期で、寒波の続いた日だった。
寒そうにしていた伊澄に手袋をプレゼントすると言い、その代わりに雫が望んだものは…伊澄の、第二ボタンだった。
「……」
不要だと切り捨てた記憶。それが今になってこうして思い起こされるとは思いもしなかった。
雫は言葉を失い、ぬいぐるみの入った袋をただ無言で抱きしめた。