それは麻薬のような愛だった
呆ける雫を他所に、そのまま伊澄は踵を返してレジへ向かう。
「待ってよいっちゃん、どうして…」
「外で待ってろって言ったろ」
「そうじゃなくて、なんでいっちゃんが買う流れになってるの?」
言っている間にもレジにて会計が進み、タッチ決済であっという間に購入を終えてしまう。袋に入ったぬいぐるみを手渡されて戸惑っていると邪魔になるからと手を引かれた。
渡されたということは間違いなく雫の為に買われたものということになるが、貰う理由が分からずますます困惑する。
そのまま店の外に出ると、繋がれた手が離された。
「ねえいっちゃん。やっぱり理由も無いのに貰えないよ。これ結構高いし。私ちゃんと払うから…」
「理由ならある」
「え?」
そうして伊澄が懐から出してきたものに、雫は驚きのあまり目を剥いた。
「…それ…」
伊澄が見せてきたのはレザー素材の黒い手袋。
見覚えのあるデザインのその手袋は、かつて雫が伊澄に贈ったものだった。高校三年の春、あまりに季節外れになってしまったクリスマスプレゼント。
忘れるはずがない。初めて好きになった人の為を想って作り、贈ったものなのだ。