それは麻薬のような愛だった
今現在雫が制作しているのは先日伊澄に買ってもらった…もとい押し付けられたぬいぐるみの衣装であり、この休み期間の間で他の仲間のものも含めほぼ完成に近付いている。
あの日は結局ショーを見た後パーク内で夕食を済ませて遊園地を早いうちに後にし、伊澄に誘われ雫はもう一晩を彼の家で過ごしてそのまま週明けの仕事へと赴いた。
以降、帰省の有無を聞かれたくらいで特別連絡を取り合ってはいないし、会っていない。
それは別に構わないのだが、気になるのはあの日の伊澄の言動。特に手袋についてはまるで分からない。
伊澄は何にも執着しなかったはずだ。飽き性というわけではなく、ただ単純にどんな事にも深く興味が向かない。
そんな伊澄が何故あれを未だに持ち続け、今更話を持ち出してきたのか、雫にはまるで分からなかった。
伊澄の事など考えるだけ無駄なのに、何故かその事が頭から離れなかった。
「…ん?」
1階へと降りてきた雫だったが、リビングから話し声が聞こえるのに気付いた。
父は朝からゴルフ仲間と出かけており夕方まで留守にすると言っていた。故に家にいるのは雫以外だと母一人のはずだが、一体誰だろう。
不思議に思いつつリビングに続くドアを開けると、見覚えのある顔が雫を迎えた。
「あら雫、降りてきたの?」
「雫ちゃん!久しぶりねえ!」
ほぼ同時に話かけてきた2人に雫は目を見開き、頭を下げた。
「こんにちは。お久しぶりです…おばさん」
母と話していたのは伊澄の母だった。