『ゴールデンゴール』
34

「相変わらず、加納はお坊ちゃんというか真面目でお前の奥さんは
幸せ者だな」

「……そうでもないよ」

「奥さんと上手くいってないのか?」

「いや、ぼちぼちだな。仲は良い方だと思う」

「いまだにラブラブとか言うなよ。
結婚して3年って言うだろ、恋心を持っていられるのは」

「そうなのか。俺は今でも惚れてるよ」

「きゃあ~、()めろよそんな台詞っ。
聞いてるこっちがあほらしくなるわ。
でもいいな、羨ましいよ。
そんなに想える相手と結婚できて子供もできて幸せなんだからな。
俺もいい女性()捕まえるぞー」


そんなふうに稲岡が吠えたところで、2人は稲岡お勧めの店に着いた。

「「いらっしゃいませ」」 

ホステスたちのウエルカムな挨拶を受けるとすぐに稲岡が言葉を発した。

「え~と、渚ちゃんいる?」

「「ひっどぉ~い。綺麗どころが2人して出迎えてるのにぃ~」」

「いやいやいや、まままま、そういうんじゃなくて俺の連れに
どんな女性()か見せたくてね」
などと、稲岡が二人のホステスのブーイングを逸らそうと意味不明な言動を
口から出す。


「あっ、はじめまして、いらっしゃいませ。私は一ノ瀬愛理と言います」

「私は水島季々と申します。以後お見知りおきを……」

「はぁ、加納匠平です」

不慣れな俺はぎこちなく自己紹介をした。


女性たちが2人して声を掛けてくれ、あれやこれやとお世話してくれるのだが、
尻がこそばゆくて堪らない。

反して慣れている稲岡は、まるで自分の家のリビングにいるように
リラックスして見えた。


「稲岡さん、渚ちゃんだけど今夜は上得意様専用になってるから、
こちらには出向けないかも。ごめんなさい」

「ありがと、分かった」

ホステスに返事をした稲岡が今度は俺に向けて言葉を放つ。

「じゃあ、彼女がこちらに顔を向けたタイミングでどの女性()か教えるよ」

「ああ……」

よほどお気に入りらしく、どうしても俺に見せておきたいようだ。

渚という女性の顔が見えるまでの間、ホステスたちが言葉巧みに
会話を途切れさせることなく、我々客との接客を円滑に進めていく。

途中では連想ゲームみたいなものもあった。

「それじゃぁ、始めるわよぉ~。バナナと言ったら?」

「滑る」

「滑ると言ったら?」

「氷……」

「氷と言ったら?」

「かき氷」

「かき氷と言ったら?」

「蜜が掛かって甘い」

「甘いと言ったら?」

「ケーキ」

「ケーキと言ったら?」

「大好きっ」

「大好きと言ったら?」

「稲岡ちゃん」

「やっばぁ~い」

「「きゃははっ」」


ヤバいと言いながら、稲岡は喜んでいる。

振りなのかもしれないが、ノリがいい。

俺なら何というだろう、そんな埒もないことを思いながら、楽しめない俺は
楽しんでいる振りをしてそこにいた。

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