運命の番は真実の愛の夢を見る
 あらわになった胸を腕でかばいながら、逃げるように身をよじる。覆いかぶさったアルベルトは薄く笑った。

「そう。君はよほど本当の愛にこだわりたいんだね」
「だって! こんな愛は、自然じゃない……怖いの」

 熱くなった目元から涙が一筋滑り落ちた。

「あなたのそばにいると、どんどん心が惹き付けられる。どんな姿を見ても、なにをされても、好きだと思う。愛情が大きくなっていくのが分かるの。ねえ、これは本当に私の心なの? 見えない力に侵食されていく気がする」
「可哀想に。疑心暗鬼に囚われているんだね」

 アルベルトの優しい声が、耳にどろりと流し込まれた。張り詰めた心の糸が、ぷつりと切れる音がした。

「……怖いわ。苦しい。どうして。私はただ幸せな恋がしたかっただけなのに」
「大丈夫だよ。君の心は、君のものだ。運命に抗いさえしなければ」

 番以外に愛情を抱かなければ、表面的には穏やかに過ごせる。彼はそう言いたいのだ。

「でも、そんなの、現実から目を逸らしているだけじゃないかしら」
「いいんだよ。不都合な現実なんて気づかなければ、存在しないのと変わらない」
「でも……」

 ひたと見据えられ、リーゼは口を閉ざした。真っ直ぐに向けられる青の瞳は凪いでいて底が知れない。

「僕への愛は君自身の心だ。信じさせてあげるよ」

 胸を守る腕をよけられてリーゼは弱々しく抵抗した。

「無理よ……嘘だって分かりきってる」
「嘘じゃないよ。僕の愛が本物なように、君の愛も本物なんだ。証明してあげる」

 アルベルトの手が白い肌の上を滑り、柔らかな胸を包み込む。

 ――そんなわけ、あるはずないのに……。

 言葉を返すことはかなわなかった。唇を塞がれたからだ。
 リーゼはシーツの波間に溺れ、アルベルトの与えるものをただ甘受する。彼の触れ方は繊細な慈しみに満ちていて、本当に愛されているみたいだった。

 ……愛されているのかもしれない。

 少なくとも彼は、自分の愛が本物だと信じているようだった。

 ……そう見せかけているだけかもしれない。

 どちらなのか、判断の境目がリーゼにはもう分からない。区別できない本物と偽物の差に、意味はあるのだろうか。

 眠りに落ちる直前、左の薬指になにかがはめられた。
 リーゼを囚える枷だ。もう逃げられない。

 誰かを傷つけても、
 まがいものでも、
 受け入れられなくても、

 ただ彼と、墜ちていくしか。


< 10 / 10 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:4

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

私ばかりが本気だと思って別れを告げたら、完璧上司の余裕が崩れました【ヒロイン視点改稿版】

総文字数/22,824

恋愛(オフィスラブ)52ページ

私の理想を詰め込んだヒーロー短編コンテストエントリー中
表紙を見る 表紙を閉じる
新卒時代の教育係で今は直属の上司でもある八代雅芳に 四年間片思いしている観月佳穂。 誰にでも平等に気を配る彼にとって、 自分もただの部下の一人――そう思っていた。 ところがある夜、雅芳から突然 「君が僕の恋人になる?」と持ちかけられ、 夢のような交際が始まる。 けれど、スマートで優しい彼は一度も 「好き」と言ってくれない。 初めてのキス以来、二度目のキスすらない。 ――もしかして、本気なのは私だけ? 募る不安に耐えきれず、佳穂はついに別れを告げる。 すると、余裕たっぷりだった完璧上司の仮面が崩れて――。 どうやら想いの深さは、 佳穂が思っていたのとは正反対だったらしく? 「私ばかりが好き」だと思っている彼女と、 完璧なのに本命相手にはめっぽう弱い上司の、 じれじれすれ違いオフィスラブ。
表紙を見る 表紙を閉じる
政治家一族の娘・遥は、初恋の相手である外科医・真裕と政略結婚することになる。 しかし形式的な見合いの席で真裕から提案されたのは、 三年後の離婚を前提とした契約結婚だった。 この結婚を、家のしがらみから逃れるための機会にしたい――。 家に人生を決められてきたのは、遥も同じ。 真裕の望む自由を奪うこともできず、遥はその条件を受け入れる。 それでも本心では、三年の間に彼と心を通わせ、ずっと夫婦でいたいと願っていた。 けれど結婚二年九ヶ月目の朝、真裕は署名済みの離婚届を差し出す。 「この結婚生活もあと三ヶ月だろ」 予定どおりのことなのに、遥は思わず「いやです」と拒んでしまう。 それでも、真裕は離婚の意思を変えようとしない。 なのに、その顔にはなぜか苦しげな葛藤が浮かんでいて――? 離婚したくない妻と、罪悪感から妻を手放そうとする夫。 三年契約の終わりから始まる、両片思い夫婦のやり直しラブストーリー。 *アルファポリスで先行連載中です
表紙を見る 表紙を閉じる
「私と別れてください」 部下であり恋人でもある佳穂から 突然別れを告げられた完璧上司の八代雅芳。 佳穂は、雅芳の本音が見えずに 「私ばかり本気なのでは」と悩んでいたのだ。 けれど彼が隠していた本音は、 抑えきれないほど重いもので――。 別れ話から始まる、完璧上司の重め溺愛ラブ。 超短編!フェチから始まる溺愛コンテスト応募作 【フェチ】うろたえるスパダリ・感情が垣間見える瞬間 *ムーンライトノベルズにR18版を掲載しています

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop