運命の番は真実の愛の夢を見る
 あらわになった胸を腕でかばいながら、逃げるように身をよじる。覆いかぶさったアルベルトは薄く笑った。

「そう。君はよほど本当の愛にこだわりたいんだね」
「だって! こんな愛は、自然じゃない……怖いの」

 熱くなった目元から涙が一筋滑り落ちた。

「あなたのそばにいると、どんどん心が惹き付けられる。どんな姿を見ても、なにをされても、好きだと思う。愛情が大きくなっていくのが分かるの。ねえ、これは本当に私の心なの? 見えない力に侵食されていく気がする」
「可哀想に。疑心暗鬼に囚われているんだね」

 アルベルトの優しい声が、耳にどろりと流し込まれた。張り詰めた心の糸が、ぷつりと切れる音がした。

「……怖いわ。苦しい。どうして。私はただ幸せな恋がしたかっただけなのに」
「大丈夫だよ。君の心は、君のものだ。運命に抗いさえしなければ」

 番以外に愛情を抱かなければ、表面的には穏やかに過ごせる。彼はそう言いたいのだ。

「でも、そんなの、現実から目を逸らしているだけじゃないかしら」
「いいんだよ。不都合な現実なんて気づかなければ、存在しないのと変わらない」
「でも……」

 ひたと見据えられ、リーゼは口を閉ざした。真っ直ぐに向けられる青の瞳は凪いでいて底が知れない。

「僕への愛は君自身の心だ。信じさせてあげるよ」

 胸を守る腕をよけられてリーゼは弱々しく抵抗した。

「無理よ……嘘だって分かりきってる」
「嘘じゃないよ。僕の愛が本物なように、君の愛も本物なんだ。証明してあげる」

 アルベルトの手が白い肌の上を滑り、柔らかな胸を包み込む。

 ――そんなわけ、あるはずないのに……。

 言葉を返すことはかなわなかった。唇を塞がれたからだ。
 リーゼはシーツの波間に溺れ、アルベルトの与えるものをただ甘受する。彼の触れ方は繊細な慈しみに満ちていて、本当に愛されているみたいだった。

 ……愛されているのかもしれない。

 少なくとも彼は、自分の愛が本物だと信じているようだった。

 ……そう見せかけているだけかもしれない。

 どちらなのか、判断の境目がリーゼにはもう分からない。区別できない本物と偽物の差に、意味はあるのだろうか。

 眠りに落ちる直前、左の薬指になにかがはめられた。
 リーゼを囚える枷だ。もう逃げられない。

 誰かを傷つけても、
 まがいものでも、
 受け入れられなくても、

 ただ彼と、墜ちていくしか。


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