歪んだ月が愛しくて2



立夏Side





ある日のこと。
授業開始のチャイムと同時に教室に入って来た紀田先生は眠そうな声でこう言った。





「……授業すんの面倒臭ぇな」




















「えっと、ナポレオンの資料は…」

「聖書はAー3の棚に…」

「あ、明智光秀の資料発見」



聖楓学園高等部南棟の図書館。
ここは世界各国から取り寄せた貴重な本が貯蔵されているとかで、国内の教育機関で最大級の規模を誇るらしい。
そんなところに普段から本を読まない俺が何故いるのかと言うと。



「紀田ちゃんも無茶言うよな。いくら授業すんのが面倒だからって“適当に歴史上の人物についてまとめたレポートを出せ”なんてさ」



そう、紀田先生のせいだ。
紀田先生が出した課題とは、今希が言ったように「ペアで歴史上の人物についてのレポートをまとめろ」と言うものだった。
それも誰でもいいから適当に決めろなんて、本当適当過ぎる。



「俺達はジャンヌ・ダルクでいいんだよな?」

「うん」

「でも意外。立夏ってフランス史に興味あったんだ」

「いや、全く」

「じゃあ何でジャンヌ・ダルク?」

「……それしか思い付かなかったから」

「逆に凄いな」

「意外と言えば、立夏くんと希くんのペアも何か意外だね」

「確かに。藤岡と仙堂、佐々山と風魔だと思ってたけど」



2人が言うように俺と希はペアを組んだ。
意外と思われる組み合わせには訳があった。



「頼稀、俺達は誰にすんの?」

「マリア・テレジアとかどうだ?」

「マリア?……ああ、キリストのお母さんか」

「そっちのマリアじゃねぇよ」



俺達の背後で繰り広げられる会話。
未空と頼稀の会話に冷や冷やしながらみっちゃんが小さな声で言った。



「……ねぇ、あれって大丈夫なの?」

「……多分」

「あのペアも見慣れないよね」

「まあ、未空のご指名なんだし大丈夫じゃね?」



正直、未空が頼稀を指名したのは意外だった。
2人は特別仲が良いと言うわけではない。
だからと言って仲が悪いわけでもないのだが、不自然な指名と組み合わせに何だか釈然としなかった。



「りーっか」

「ん?」

「何、もしかして立夏も心配してんの?」

「心配って言うか…」



腑に落ちない。



「大丈夫だって。あの2人って結構良いコンビだと思うよ」

「そう、かな…」

「うん、誰かさんのことに関してはね」

「誰かさん?」



誰?



そう言うと希はクスッと笑って俺の手を引いた。



「ま、なるようになるって。俺達も資料集め再開しようぜ。早く資料集めないとまとめに時間取れないからさ」

「あ、うん…」



モヤモヤした気持ちが晴れないまま、未空達に背を向けて希と資料集めに取り掛かった。


< 90 / 651 >

この作品をシェア

pagetop