公爵様の偏愛〜婚約破棄を目指して記憶喪失のふりをした私を年下公爵様は逃がさない〜



「……ねえ、エルーシア。誓ってくれる?」

「誓う?」

「死ぬまで、いやたとえ命尽きても、俺たちはずっと一緒だって」


 身体を少し離し、私の額に自身の額を押しつけてくる。縋るようなルーカスのその瞳に目を奪われた。
 この輝き、この光景を前にもどこかで見たような気がしたが、なぜか思い出せない。


「ルーカス…」


 ふと、今朝見た夢を思い出した。
 夢の中の私は泣きながら、誰かをずっと憎んでいて、終わらない恐怖と快楽に気が狂いそうだった。そんな私を──ルーカスは笑いながら見ていた。


 夢のはずなのに。知らないはずなのに。
 頭の中で誰かがこれは間違いだと囁く。


「エルーシア?」


 答えない私にルーカスが不安そうに尋ねる。


 ──大丈夫。あれは全部夢。悪い夢だから。 


 スカートの上でぎゅっと自身の手を握る。そして、意を決して私は口を開いた。


「誓うわ、ルーカス。私たちはずっと一緒よ」

 
 ルーカスの目をまっすぐと見つめてそう言えば、彼の瞳が満足そうに細まった。その表情に、何故だかひどく胸がざわついた。


「ルーカス、」

「愛してるよ、エルーシア」

「……私も、愛してる」


 私の言葉にルーカスがあまりにも幸せそうに笑うので、つられて私も笑った。そしてどちらからともなく、唇を重ねる。


「………やっとだ」


 そう呟いたルーカスの声が何だか泣きそうで、私もつられて泣きそうになった。


 ──頭の中で、何度違うという声が聞こえても、私は彼を愛している。だからきっと、これは間違いなんかじゃない。

 
 「これで、ずっと一緒だ」


 ルーカスのその言葉に、こくりと頷く。


 死ぬまで、いや命尽きたとしても、私はルーカスと共にある。それがきっと私の幸せなのだから。


 頭の中で囁く声を消すように、私はそっと目を閉じた。


 終



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