公爵様の偏愛〜婚約破棄を目指して記憶喪失のふりをした私を年下公爵様は逃がさない〜


 その日、屋敷にやってきたルーカスをみて、会うまでのあの高揚感が嘘のように、私の気分は一気に下がった。


 ──魔術師として危険な仕事に就くことがあるのは、もちろん分かっている。それでも心配だから無茶しないでと、ルーカスにはいつも伝えていた。


 なのに、今日のルーカスの身体には生傷がたくさんできていた。しかも、顔色も悪い。なので、いつも通り小言を言うと、彼はくすくすと笑った。


 心配で怒っているのに、ルーカスは「エルーシアに心配されるなら傷ができるのも悪くない」と言う。その言葉に私はムッとして、彼に背を向ける。


「ねえ、そろそろ機嫌なおしてよ」

「嫌」

「もう無茶なことはしないって。ねえ、だからこっち向いて」

 機嫌を取るようなルーカスの態度に、つい許してしまいそうになる。でもここで折れるのは何だか不服だと思い、黙りを決め込んだ。

「エルーシア、お願い」


 その言葉に、しぶしぶルーカスの方を向けば、彼は私の唇にキスを落とす。突然はやめてっていつも言ってるのに、聞いてくれたことはない。熱くなる頬を隠すように、もう一度そっぽを向けば、ルーカスがくすくすと笑う。


「もう何回もしてるのに、いつまでたってもエルーシアは可愛いねぇ」

「〜〜もうっ!すぐからかうんだから…!」

 その余裕のある表情を崩したくて、仕返しとばかりにルーカスにキスをした。
 といっても、さすがに口は恥ずかしいので、頬にだけど。


 予想外だったのか、目を丸くするルーカスに私はニヤリと笑った。どうだ、やられっぱなしの私ではないのよ。


 なんて考えながら、余裕の笑みを浮かべていれば、突然ルーカスに抱きしめられる。

「ルーカス? どうしたの?」

 問いかけるが、返事はない。段々と私を抱きしめるルーカスの手に力が入って、苦しくなってきた。彼の背中を軽く叩けば、彼はようやく口を開いた。

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