今夜0時、輝く桜の木の下で

夏休み

四人のバイト内容は、主に接客だった。


注文を聞き、オーダーをキッチンに伝え、ドリンクを提供する。


愛想のいいシローとキラは難なくこなしていたが、少し無愛想な紺は、洗い物や掃除を積極的に引き受けていた。


そして、日が落ちると咲夜がやってくる。


日によっては、咲夜と佐藤さんだけで店を回すこともあり、紺はそれが少し不服だった。


咲夜はキラの母親の配慮もあり、問題なくアルバイトをこなしていた。


全員が仕事に慣れてきた、ある日。


その日は咲夜が休みで、紺たち三人と佐藤さんの四人で、閉店後の片付けをしていた。


「今日、忙しかったー」
キラが大きく伸びをする。


「キラママも疲れてたもんね」
シローが流し台を片付けながら答えた。


「俺らに片付け頼むの、初めてだよな」
紺が床を拭きながら呟く。


「あんだけ注文入ってたら、まぁそうなるだろ」
佐藤さんが、ゴミ袋を縛りながら返した。


そう言いながら、佐藤さんは軽く下唇を噛んだ。


その様子に気づいて、シローが口を開く。


「佐藤さん、吸ってきていいですよ。今日ずっと我慢してましたよね?」


「いや、いいよ」
佐藤さんは短く答える。


「もう俺らしかいないし、遠慮しないで大丈夫ですよ」


「……お前らはいいの?」
少し間を置いて、佐藤さんが聞き返した。


「もう、吸ってねぇよ」
紺が即座に言う。


「右に同じくです」
シローも頷く。


「確かに俺、最近ずっと吸ってねぇ!」
キラが自分でも驚いたように声を上げた。


「キラは、俺とシローに合わせてただけだったしな」
紺が肩をすくめる。


「ニコチン依存にならずに済んだってところか……わり、すぐ戻る」


佐藤さんはそう言って、店の外へ出ていった。


「てか、なんで二人吸うのやめたの?」
佐藤さんが出ていったのを見送ってから、キラが聞く。


「あー、それはその……」
シローは歯切れ悪く言葉を濁した。


「咲夜さん、タバコあんまりみたいだったから」
紺が淡々と答える。


「咲夜さんのため?! 紺、お前もしかして」
キラがニヤつく。


「苦手な人いるから、吸わないだけ」
紺は目を逸らして言った。


「いつもの紺の優しさだよね。まぁ、もともと吸っちゃダメだけど」
シローが苦笑する。


「でもさ、俺らもう高二なのに、浮いた話ないよな」
キラがぽつりと言う。


「キラ、彼女ほしいの?」
シローが首をかしげる。


「そう言われると、ピンとこないけど……」
 

「だよね」
シローはあっさり返す。


「それどういう意味?」
キラが食い下がった。


「でも、紺ももしそういう話あったら教えてね。あとで知るとショックだから」
そう言いながら、シローはちらりと紺を見る。


「いや、だからないって」
紺は即答した。


そんな会話をしていると、店の外から足音がして、佐藤さんが戻ってきた。


「やっぱ臭いな」
紺が率直に言う。


「やめたから、余計わかるよね」
シローも同意した。


「いいって言ったの、お前らじゃん」
佐藤さんは呆れたように言う。


「そういえば、佐藤さんって彼女いないんですか?」
さっきまでの話の流れで、シローが聞いた。


「いねぇだろ。職も家もないし」
紺がぶっきらぼうに言う。


「わかんねぇじゃん」
キラがすぐに返す。


「お前ら、口じゃなくて手動かせ」
佐藤さんが作業を促した。


「じゃあ、じゃあ佐藤さんが俺たちくらいだった時は?」
キラがなおも食い下がる。


「あんま、いい話はねぇよ」
少し考えてから、佐藤さんは答えた。


「なくはないって感じですね」
シローがニヤリとする。


「すぐ片付け終わらすから、聞かせてよ」
キラは目を輝かせた。


「俺は聞いて帰るけど、紺はどうする?」
シローが紺に振る。


紺は嫌そうな顔をしつつ、


「……シローと帰るよ」


と短く答えた。


片付けを終えた四人は、店の席に腰を下ろした。


「まじで、面白くないっていうか、なんなら嫌な話だよ」
佐藤さんは前置きをする。


「そう言われると、余計気になります」
シローが身を乗り出す。


キラは大きく何度も頷いた。


紺は腕を組み、少し下を向いている。


「ちょうどお前らくらいの時に、はじめて好きな人ができた。年上のな」


シローは、その言葉に反応して、ちらっと紺を見る。


「年上彼女いたんすか?!」
キラが勢いよく聞いた。


「キラ、ちょっと早くない?」
シローが笑う。


「いや、付き合ってない」
佐藤さんは静かに言った。


「振られたんだろ」
紺が低く言う。


「ちょっと、紺」
シローが咄嗟になだめる。


「告白する前に、死んじまった」


その一言で、三人の呼吸が一瞬止まった。


「俺なりに頑張って、そのデートまで漕ぎつけたんだけど、そのデート先で……」


「デート先で……?」
キラが息を呑む。


「通り魔に巻き込まれて、亡くなった」


三人は言葉を失った。


「な、いい話じゃないって言ったろ?」


佐藤さんは小さく息を吐く。


「今でも、あの日別のところに行ってたらって思うよ。満足したか? そしたら、シローと紺は帰りな」
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