今夜0時、輝く桜の木の下で
「あ、まじか」
シローがスマホを見て声を上げた。
「どした?」
紺が聞く。
「親がさ。遅いから迎え来るって」
シローは申し訳なさそうに眉を下げた。
「いいって言ってるのに……紺、ごめん。一緒に帰れないや」
「全然いいよ」
紺はあっさり言う。
「一人で帰れるし」
「俺が送ってく」
佐藤が口を挟んだ。
「は? 嫌なんだけど」
即座に紺が言い返す。
「俺だって嫌だよ」
佐藤はため息混じりに言った。
「でも大人として、未成年を一人で帰すわけにいかないだろ」
「俺も紺送る!」
キラが手を挙げる。
「キラはシローの親御さん迎えに来るの、一緒に待ってて」
佐藤が即答する。
「確かに……了解っす」
キラは素直に引き下がった。
「じゃあ、行ってくる」
「二人とも、また明日な」
紺が言う。
「おう!」
「紺、また明日」
キラとシローが声を揃えた。
佐藤さんと紺は店を出て、夜道を歩く。
佐藤と紺の間には、しばらく沈黙が流れていた。
その沈黙を破ったのは、紺だった。
「……おっさんは、大丈夫だったのかよ」
「なにが?」
佐藤が少し意外そうに聞き返す。
「さっき言ってた事件の時だよ」
紺は視線を前に向けたまま言った。
「怪我とか、しなかったのかって聞いてんの」
「すぐキレんなよ」
佐藤は苦笑する。
「まあ……太もも切られたよ。結構痛かった」
「……」
「でさ」
佐藤は少し間を置いてから言った。
「あの話、続きがあるんだけど。聞くか?」
紺は一瞬迷ってから、黙って頷いた。
「続きっていうか」
佐藤はゆっくり言葉を選ぶ。
「俺が勝手に引きずってるだけなんだけどな」
「通り魔するやつってさ」
佐藤は淡々と続けた。
「子供とか女の人とか、自分より弱そうなやつを狙うだろ」
「それで、俺が好きだった人も狙われた」
「俺、一回庇ったんだよ」
身振りを交えて言う。
「こう、突き飛ばしてさ。太もも切られたのはその時」
「でもさ……」
佐藤は一度、言葉を切った。
「そのままあの人が逃げてくれてたら、助かってたと思う」
「……どういうこと?」
紺が小さく聞く。
「俺が突き飛ばしたあと」
佐藤は低い声で言った。
「その人、立とうとしなかったんだ」
「え……」
「俺にはさ」
佐藤は歩きながら、遠くを見るような目をしていた。
「わざと、犯人から逃げなかったように見えたっていうか」
「それで、そのまま……目の前でな」
「俺も痛みで足動かなくて」
短く息を吐く。
「何もできなかった」
「今でも考えるよ」
佐藤はぽつりと言った。
「あの人はなんで、逃げなかったんだろうって」
紺は何も言えなかった。
しばらく歩いたあと、佐藤が足を止める。
「……着いたぞ」
「どうも」
紺は短く答えた。
佐藤は踵を返しながら言う。
「俺のはイレギュラーすぎるけどさ」
少しだけ振り返る。
「後悔しないようにしろよ」
紺はまっすぐ佐藤に目を向けていた。
「思ったことは言った方がいい。大切な人相手なら、なおさらだ」
「じゃあな。明日、遅刻すんなよ」
そう言い残して、佐藤は夜の中へ歩いていった。
紺は姿が見えなくなるまで、佐藤さんを見送った。
シローがスマホを見て声を上げた。
「どした?」
紺が聞く。
「親がさ。遅いから迎え来るって」
シローは申し訳なさそうに眉を下げた。
「いいって言ってるのに……紺、ごめん。一緒に帰れないや」
「全然いいよ」
紺はあっさり言う。
「一人で帰れるし」
「俺が送ってく」
佐藤が口を挟んだ。
「は? 嫌なんだけど」
即座に紺が言い返す。
「俺だって嫌だよ」
佐藤はため息混じりに言った。
「でも大人として、未成年を一人で帰すわけにいかないだろ」
「俺も紺送る!」
キラが手を挙げる。
「キラはシローの親御さん迎えに来るの、一緒に待ってて」
佐藤が即答する。
「確かに……了解っす」
キラは素直に引き下がった。
「じゃあ、行ってくる」
「二人とも、また明日な」
紺が言う。
「おう!」
「紺、また明日」
キラとシローが声を揃えた。
佐藤さんと紺は店を出て、夜道を歩く。
佐藤と紺の間には、しばらく沈黙が流れていた。
その沈黙を破ったのは、紺だった。
「……おっさんは、大丈夫だったのかよ」
「なにが?」
佐藤が少し意外そうに聞き返す。
「さっき言ってた事件の時だよ」
紺は視線を前に向けたまま言った。
「怪我とか、しなかったのかって聞いてんの」
「すぐキレんなよ」
佐藤は苦笑する。
「まあ……太もも切られたよ。結構痛かった」
「……」
「でさ」
佐藤は少し間を置いてから言った。
「あの話、続きがあるんだけど。聞くか?」
紺は一瞬迷ってから、黙って頷いた。
「続きっていうか」
佐藤はゆっくり言葉を選ぶ。
「俺が勝手に引きずってるだけなんだけどな」
「通り魔するやつってさ」
佐藤は淡々と続けた。
「子供とか女の人とか、自分より弱そうなやつを狙うだろ」
「それで、俺が好きだった人も狙われた」
「俺、一回庇ったんだよ」
身振りを交えて言う。
「こう、突き飛ばしてさ。太もも切られたのはその時」
「でもさ……」
佐藤は一度、言葉を切った。
「そのままあの人が逃げてくれてたら、助かってたと思う」
「……どういうこと?」
紺が小さく聞く。
「俺が突き飛ばしたあと」
佐藤は低い声で言った。
「その人、立とうとしなかったんだ」
「え……」
「俺にはさ」
佐藤は歩きながら、遠くを見るような目をしていた。
「わざと、犯人から逃げなかったように見えたっていうか」
「それで、そのまま……目の前でな」
「俺も痛みで足動かなくて」
短く息を吐く。
「何もできなかった」
「今でも考えるよ」
佐藤はぽつりと言った。
「あの人はなんで、逃げなかったんだろうって」
紺は何も言えなかった。
しばらく歩いたあと、佐藤が足を止める。
「……着いたぞ」
「どうも」
紺は短く答えた。
佐藤は踵を返しながら言う。
「俺のはイレギュラーすぎるけどさ」
少しだけ振り返る。
「後悔しないようにしろよ」
紺はまっすぐ佐藤に目を向けていた。
「思ったことは言った方がいい。大切な人相手なら、なおさらだ」
「じゃあな。明日、遅刻すんなよ」
そう言い残して、佐藤は夜の中へ歩いていった。
紺は姿が見えなくなるまで、佐藤さんを見送った。