今夜0時、輝く桜の木の下で
「はい、じゃあ次。キラくんの番」

「そっか、こっちがメインか」

「もちろん」

「俺説明下手だから、ちょっと長いかも」

咲夜は即答した。

「何時間でも聴くよ」

キラは少し笑ってから、視線をカウンターに落とした。

「じゃあまず、俺と紺の話から……」

⸻

キラと紺は、同じ保育園に通っていた。

キラは小さい頃から活発で、よく走り回る子供だった。
ケンカもするし、怪我も多い。膝にはいつもどこかしら傷があった。

一方の紺は、目立つタイプではない。
でも隅にいるわけでもない。気づけばみんなの近くにいて、静かにそこにいる。そんな子供だった。

ある日のことだった。

保育園にあった電車のおもちゃが壊れているのを、先生が見つけた。

「これ、誰が壊したの?」

先生がみんなに聞く。

少しの沈黙のあと、ひとりの子が言った。

「キラくんだとおもう」

すると、別の子も続いた。

「このまえ、そのでんしゃであそんでた」

それをきっかけに、ぽつぽつと声が上がる。

「キラくんじゃない?」
「キラくんだとおもう」

気づけば、クラスのほとんどの子が同じ名前を口にしていた。

先生はキラの前にしゃがんだ。

「キラくん、壊したなら正直に言いなさい」

キラは首を振る。

「俺じゃない」

「本当に?」

「ちがう」

それでも先生は言った。

「嘘をつくのはね、ケンカするよりもずっと悪いことだよ。正直に話して」

キラは唇を噛んだ。

自分がケンカをよくすることも、怒られることが多いことも知っている。

でも、壊したのは自分ではない。

胸の奥がぎゅっと締めつけられた。
泣きそうになるのを、必死でこらえていた。

その時だった。

「キラくんじゃないよ」

部屋の後ろから声がした。

みんなが振り向く。

紺だった。

「おれ、みてたけど」

静かな声で言う。

「でんしゃこわしたの、キラくんじゃないよ」

先生が少し驚いた顔をした。

「紺くん、見てたの?誰が壊したの?」

紺は少し首をかしげた。

「せんせい、それきいてどうするの?」

「え?」

先生は戸惑ったように言う。

「どうするって……みんなのおもちゃ壊したなら、謝らなきゃダメでしょ?」

紺は少しだけ考えて、それから言った。

「じゃあ、まず」

まっすぐ先生を見て言う。

「せんせいがキラくんにあやまったら?」

教室が静かになった。

「うたがったんだから」

紺はそう言ってから、今度はクラスのみんなの方を見た。

「みんなも、みてもないのにきめつけちゃだめでしょ」

誰も何も言えなかった。


次の日。

先生は朝の会でこう言った。

電車のおもちゃを壊した子が、自分から話しに来てくれたと。

電車を持って走っていた時に転んで、その拍子に壊してしまったらしい。
怒られるのが怖くて、隠してしまったのだという。

「もしおもちゃを壊してしまっても、怒らないから、ちゃんと教えてください。みんなと先生の約束」

先生はそう言っていた。

あとで知った話では、その子と一緒に先生のところへ行ったのは紺だったらしい。


それまで、キラと紺は一緒に遊んだことはほとんどなかった。

ただ同じお部屋にいるというだけだった。

その日の夕方、お迎えを待つ子供たちがそれぞれ遊んでいた。

キラは少し迷ってから、紺のところへ行った。

「紺くん」

紺は顔を上げた。

「ん?」

キラは少しもじもじしてから言った。

「きのう、ありがとう」

紺は不思議そうな顔をした。

「ほんとうのこといっただけだよ」

それだけだった。

⸻

キラは少し笑って言った。

「それから紺とめっちゃ仲良くなって、ずっと一緒にいるって感じ」

咲夜は腕を組みながら笑った。

「その紺くん、すっごく想像できるなー」

「でしょ?」

キラは少し誇らしげだった。

「紺はマジで昔から全然変わってない」
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