今夜0時、輝く桜の木の下で
カフェの閉店後。
キラと咲夜はカウンターに並んで座っていた。二人の前には、キラママ特製の賄いカレーが置かれている。


「いただきます」


咲夜は手を合わせ、カレーをひとくち口に運んだ。


次の瞬間、目を見開き、思わず口を押さえる。言葉にならない声が漏れた。


「かあちゃんのカレー、うまいっしょ?」


キラの問いかけに、咲夜は大きく頷いた。


「あ、すんません……タメ口」


少し焦るキラに、咲夜は水をひとくち飲んでから答えた。


「そんなこと気にしなくていいんだよ。キラくん、ずっと無理して私に敬語っぽいの使ってたよね」


「敬語っぽいか……」


キラは苦笑する。


「うん。でも、タメ口でいいよって言うのもなんか違うかなと思って、触れてこなかったんだけどさ」


「うわー、マジか」


キラは頭をかいた。


「そんなにショック?」


「いや、なんか……敬語って基本っていうし。俺、進学する気ないのに、このままじゃ社会出られねぇなーって」


「あー、確かに。言葉遣い気にする人もいるかもね」


「やっぱそうっすよね」


咲夜は少し考えるようにしてから、ゆっくり続けた。


「ある程度意識することは、もしかしたら大切かもしれないけど……」


キラは首を少し傾げる。


「キラくんの裏表がない感じ、真っ直ぐさは、ちょっと一緒にいたらすぐにわかるもん。言葉遣いなんて、正直気にならないくらい」


キラは少し照れたように笑った。


「キラくんがこれから大人になって出会う人たちにも、それは絶対伝わるはずだよ」


「咲夜さん、やばいっす」


咲夜は笑いながら聞き返す。


「どういうこと?」


「咲夜さんみたいな大人ばっかりだったらいいのになー」


「さすがにそれは過大評価すぎる」


「いや、ガチで」


キラは真顔で言った。


咲夜は少し笑ってから、静かに続ける。


「言葉遣いとかで良い悪い決めるなんて、ロボットみたいだと思わない?
自分の目の前にいる人が、自分をどう扱ってるかなんて、見ればすぐにわかるでしょ?」


キラは何かを思い浮かべて頷いた。


「だから私と一緒にいる時はそのままでいて欲しいなって思うよ。キラくんも紺くんもシローくんも」


「うぃっす」
キラは嬉しそうに答えた


「佐藤さんもですよ」


咲夜の言葉に2人から距離をとってキッチンに座っていた佐藤さんは飲んでいた水を詰まらせかけた。
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