今夜0時、輝く桜の木の下で
だいぶ日が落ちてきた頃、咲夜がやってきた。


「紺くん、シローくん、お待たせ! 変わるね!」


そう言ってエプロンを身につけ、長い髪をポニーテールにまとめる。


「咲夜ちゃん、来てくれて早々で悪いんだけど、洗い物たまっちゃってて。お願いできる?」


キラママが声をかけた。


「はーい」


咲夜は軽く返事をして、キッチンへ入っていく。


「二人ともお疲れ!」


キラがカウンター越しに声をかけた。


「今週末までには仲直りしてよ。お楽しみなんだから」


「え、なんのこと?」


紺は、本当にわかっていないという顔をした。


「別に喧嘩とかしてないし」


シローはそう言うと、いつもより雑にエプロンを脱いだ。


手早く荷物をまとめ、キッチンに向かって


「お疲れ様でした」


とだけ声をかけると、そのまま店を出ていく。


「シロー、待てって!」


紺は思わず声を上げた。


「咲夜さん、お先です。お疲れ様でした」


キッチンに向かってそう言い残し、慌ててシローを追いかけていく。


しばらくして、洗い物を片付けた咲夜がキッチンから出てきた。


「……二人、喧嘩しちゃったの?」


「喧嘩というか、なんかシローが怒ってますね」


テーブルを拭きながら、キラが答える。


「なにかあったの?」


「いや、特に何も」


キラは少しだけ言葉を濁した。


「じゃあなんで……。シローくんが怒るなんて珍しいよね?」


「まぁ、あいつは紺のことに敏感なんすよ」


キラは少し笑ってから、ふと思い出したように言った。


「咲夜さん……前に俺ら三人の話、しかけたの覚えてます?」


「もちろん」


咲夜はすぐに頷く。


「今日の賄いの時に聞いてくれません?」


キラは、何かを思い出すように少し目を細めた。
その表情には、どこか寂しさが混じっていた。


「うん。ずっと聞いてみたかったんだよ」


咲夜は優しく頷いた。
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