今夜0時、輝く桜の木の下で
「高校では上手くやろうと思ったんですけど、また失敗しちゃって……その後すぐ病気になって、学校通えなくなって」

咲夜はぽつぽつと話を続けた。

「クラスメイトは私が嫌いで、学校は私に配慮しなきゃいけなくて、両親には私の治療費とか負担かかりまくってて……それに、私は社会人になったとしても普通に働けない」

話すうちに、咲夜の声が強張っていく。

最後の方は、言葉を絞り出すように震えていた。

「気づいてるんです。私……いない方がい」

「何言ってんの」

思わず、佐藤の口から声がこぼれた。

咲夜は顔を上げ、いつもと変わらない調子で答える。

「本当のことですよ」

「最後のだけは絶対違います。訂正してください」

佐藤は咲夜をまっすぐに見ていた。

その剣幕に、咲夜は少し目を丸くする。それから、困ったように笑った。

「そんな、重く受け止めないでくださいよー」

すっかり酔っ払いの調子に戻った咲夜は、ひらひらと手を振った。

「ちゃんと受け止めて、大丈夫なんで」

そう言って、ニッと笑う。

佐藤はすぐには返事をしなかった。

「……さっきから周りの人の気持ちのことばっかりですけど、咲夜さんの気持ちは?」

「私の気持ちかー」

咲夜は繰り返した。

けれど、すぐには続きが出てこない。

しばらく考えたあと、ふと思い出したように口を開いた。

「前にも言ったかもなんですけど、家族って厄介だなーって」

思いがけない答えに、佐藤は少し戸惑ったように眉を動かした。

「厄介?」

「普段そこまで大事にしてなくても、うーん……離れたら悲しくなっちゃう感じ」

咲夜は言葉を探しながら、ゆっくりと話した。

それがなかったら楽なのになーと小さく呟き、咲夜は再びお酒を口に運んだ。

佐藤は、そんな咲夜の横顔を見ていた。

「……なんで俺に話してくれたんですか?」

「さっき言いませんでしたっけ? 大人だから」

「大人は他にもいるでしょう」

「……佐藤さんがもうちょっとテキトーに聞いてくれたら、色々諦められたんですけどね」

「どういうことですか?」

咲夜は少しだけ笑った。

「嬉しかったです。否定してくれて」

佐藤は何も言わず、咲夜の言葉を待った。

「本当は紺くんにも……シローくんとキラくんにも聞いて欲しくて、それでも仲良くして欲しいって思っちゃってます」

さっきまでの笑顔が、少しだけ頼りなくなる。

「でも私、大人だし……」

そこで言葉を切り、咲夜は自分でもおかしくなったように笑った。

「……っていうのはカッコつけで、怖いんです。みんなが離れていくのが」

佐藤は、返す言葉を探していた。

咲夜はそんな彼の様子を見て、ふっと表情を和らげる。

「何が言いたいかっていうと、佐藤さんに聞いてもらって、その……スッキリしました」

「えっと……」

佐藤がようやく口を開きかけたところで、咲夜が立ち上がった。

「そろそろ出ましょうか」

佐藤は言いかけた言葉を飲み込み、咲夜と一緒に店を出た。


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