ダーリンと呼ばせて~嘘からはじめる三カ月の恋人~
 そこに飛びぬけて早い昇級……女子社員の憧れの人だ。

「今はコンプラもうるさいからさ……だから本当に何かあったら溜め込まないで上司に相談ね?」

「はい」

 素直に頷いたらニコッと微笑まれて言われた。

「直属の上司に言えないことは俺にどうぞ」

「はい、ありがとうございます」

 仕事もたくさん抱えて部下も多い方なのにいい人だ、なんて呑気に思っていたら頭の上から降ってきた。

「恋愛相談も受け付けるよ?」

「は?」

「安積が好きなら応援するよ」

「は?! 違います!」

 そんな言葉、柳瀬部長の気まぐれとノリみたいなもので軽く「うふふ~頼りにしてます~」なんて軽くかわせばよかったのに。

 言ってから後悔――それはその言葉を柳瀬部長……だけでなく。

「あ、安積」
 
 背後で通りかけた安積さん本人にまで聞かれたことだ。
 
「違うって」

「あんまり部下を揶揄うな。そんな暇あるなら送った申請書、早く承認して?」

「それより中国スケジュールの件なんだけどさぁ……」

 さほど気にした様子もなく安積さんは柳瀬部長と仕事の話を始めてしまい……。

(え、え……違うの、ええ違うのぉ!)

 でもそんな言葉が言えるわけがない。

「違うのにぃ……」
 
 言い訳も取り繕う言葉も投げられず、仕事の話をしながら去っていった二人の上司の背中を見送りながら顔面蒼白の私がいる。

(つ、詰んだ……)

 好きな人に好きも言えない環境、言えないままの方がまだマシだった。

 私は、言えないままの思いに変な誤解まで与えて片思い進行中なのである。
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