ダーリンと呼ばせて~嘘からはじめる三カ月の恋人~

思いがけない言葉

 翌日情けないが体調不良で仕事を休んだ。胃が痛くて食事が喉を通らない、軽い頭痛からの微熱。完全に精神的なものから引き起こしている気がして本当に馬鹿ではないだろうかと思う。

(入社してから体調不良で休んだことなんか一度もなかったのに……)

 体調がすぐれないは嘘ではない。でもこれは完全なずる休みだ。
 
 安積さんと仕事できる時間だってもう限られているのに何をやっているんだ。

 部下である自分だけは必要とされて求められる人間でいたかったのに、それを自分の手で放棄してしまった。

(泣きたくなる……)


 鳴らない携帯電話。

 鳴らないのは当たり前だ。鳴るのを期待したくなくて頭から電源を切ったから。
 
 心配してくれているかな、してるだろうな。安積さんは優しい人だから。

 こんな関係になっていなくてもきっと上司として部下を心配してくれるはずだ。

 でも今は一応恋人同士だ。かりそめの、嘘の恋人だけれど恋人(そういう関係)なら、連絡が入るかも……そんな期待をして連絡を待ってしまうのが嫌だったのだ。
 
 モヤモヤと考える事ばかり。でもどこにも答えはないし出口もない。ただ悩んで思うだけ。思いつめて頭を痛めて虚しさだけを募らせた。
 

 ひとりでいると一緒に過ごした時間ばかりが思い出されて、ああ、こういうことかと萎えてくる。

 思い出をください、その通りだ。こんなときめいたような時間をひたすら思い出して胸を焦がして切なくなるのだ。

 これが――私の望んだことだ。
< 151 / 248 >

この作品をシェア

pagetop