ダーリンと呼ばせて~嘘からはじめる三カ月の恋人~
 溢れて零れ落ちて、それでもいくらでも流れ落ちる。
 
「四宮の気持ちは本当に嬉しく思う。未だに信じられないくらい……でもこの数カ月、一緒にいていろんな四宮を知って思ったよ。やっぱり四宮には俺よりもふさわしい男がいるって」

「それは私が決めます! そんなことは私が決めます! 一緒にいたいと思う人は、私が決めますっ!」

 こんな言葉を言ったら……安積さんの傷口を抉る。それはわかっているんだ。伝えてくれる言葉を受け止めずに自分の思いだけ主張している……そんなの前の恋人と同じではないか。

 安積さんの気持ちに寄り添えない。
 変われないと、傷ついて蓋をし続ける安積さんを救う言葉が見つけられない。


 私の知らない安積さんの時間に触れたいと思ったのに……結局触れられない。


 私にだって出来ない……そばにいたって意味がない時間だと言われてしまった。


「四宮はさっき言ったよな。自分がもらってばかりだって。そんなことはないんだ、俺だっていっぱいいろんな気持ちを思い出した。 もう感じないと思っていた気持ちだってある。お礼を言うのは俺もだよ」

「……」

「ありがとう。応えてやれなくてごめん」

 ガタン、と椅子が動く音がして安積さんが視界から消える。

 行かないで、行ってしまわないで……言いたいのに声にならない。静かな部屋なら声にならなくてもこの言葉が届かないか、そう思ってもそれは儚い願いで……パタンと玄関扉の音が響いてその音が心に溶けて落ちていった。
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