Sweet × Sweet 〜完璧王子様の絶対的溺愛を添えて〜
第3章
ロールケーキ・ハプニング!
◯桃音のクラス 教室 朝の会 (ショートホームルーム的なもの)
担任
「えー、今日は新しいクラスメイトを紹介する」
突然の発表にざわつく教室内。
担任
「親の仕事の関係で、1か月ほど入学が遅れてしまったそうだ。入っていいぞ」
扉が開き、担任の横に立ったのは人懐っこい雰囲気を持った金髪の美少年だった。きゃあきゃあと女子が盛り上がる。
担任に自己紹介を促される転校生。
雪斗
「佐々木雪斗でーす。勉強はあんまり得意じゃないけど、赤点は取らないように気を付けまーす。よろしくお願いしまっす」
担任
「席はあそこ……柊の隣だな」
担任が桃音の席の隣を指差す。
雪斗
「はーい、了解でっす!」
指定された席に着く雪斗。桃音の方を向くと、ニッコリと笑った。
雪斗
「お隣さん……えっと柊さんだっけ? よろしくね」
桃音
「あ、うん。柊桃音です。よろしくね」
雪斗
「桃音ちゃんっていうんだ。名前可愛いね! あ、俺の事も雪斗って気軽に呼んでね!」
桃音
(コ、コミュ力が高い……!)
近くの席の女子から「柊さん、名前呼びしてもらえていいなぁ……」という羨望の眼差しを受ける桃音。
昼休みになり、雪斗の机の周りには人が集まる。その人気っぷりを、桃音と、昼食の誘いに桃音の所へ来ていた撫子が「すごいね」と言いながら眺めていた。
クラスメイト(女)
「佐々木君のお家って、もしかしてあの佐々木製菓?」
雪斗
「うん、俺の父親の会社だねぇ。俺は何も権限とか持ってないけど!」
クラスメイトから質問を受けて、カラッと笑いながら答える雪斗。大企業の息子なのに気取った感じがなく、クラスにもすぐに馴染んでいる様子がうかがえた。
雪斗
「そーだ。親の会社で思い出した。この学園ってさ、料理部があるんだよね? 誰か入部した人っている?」
雪斗の周りに集まっていた人達が一斉に首を振る。
クラスメイト(女)
「あ、柊さんって料理部に入部したんじゃなかった?」
桃音
「うぇ!?」
突然名指しされ、驚く桃音。
雪斗
「あ、まじで!? 今日って部活に行く? 放課後さ、料理部にちょっと見学に行きたくて!」
キラキラした瞳で頼まれる桃音。クラスメイトからも「佐々木君たってのお願い、叶えてあげて!」という圧を感じる。
桃音
「わ……分かった」
◯料理部 活動場所
雪斗
「おじゃましまーす! ちょっとだけ見学させてくださーい!」
既に部室にいた他の料理部員に、ニコニコと笑顔を振り撒く雪斗。人懐っこい表情に、みんながあっという間にウェルカムな雰囲気になる。
桃音
(すごい……! この人……莉玖くんとはまた違ったタイプの人たらしだ……!)
雪斗はさっそくお菓子を作っている部員の所へ行き、目をキラキラさせながら質問をしている。雪斗に質問された部員たちは、頬を赤らめながら嬉しそうに対応。
自由人な雪斗の姿にポカンとしていた桃音は、ハッとして、慌てて部長の元へ行く。
桃音
「あの、部長……? 彼……雪斗くん、佐々木製菓の息子さんらしくて。佐々木製菓が出してるお菓子の材料を部活で使ってるって話をしたら、料理部の活動を見学したいって言われたんです。連れてきといて今更なんですけど、見学とかって大丈夫ですかね……?」
部長
「なんですって……彼が!?」
桃音の発言に、目をギラリと輝かせる部長(女)
目の色が変わった部長に、ギョッとする桃音。
部長
「佐々木製菓さんからは、毎年料理部へ寄付という形で、試作品だったりを色々といただいているのよ!」
桃音
「えっ、そうなんですか!?」
部長
「部員数も少ないから、部費もそんなに多く出てないし、本当に助かってるの。その会社のご子息がわざわざ足を運んでくださったなんて……ありがたい事だわ! 部長としてご挨拶しないと! あああ、お茶出しもしなきゃ……!」
大興奮の部長。おろおろする桃音の後ろから、雪斗がぴょんと顔を出す。
雪斗
「あっ、部長さんですか? 全然おかまいなく! 俺もこの後部活あるんで、すぐ行きますし!」
部長
「そんなっ!」
雪斗
「親にも料理部の事はちゃんと言っときますんで! ねぇねぇ、桃音ちゃんがうちの製菓材料を使ってる所見たいなー!」
桃音が返事をする前に、部長がもちろんです!と言って、桃音に目で「早く取り掛かって!」と訴えてくる。その勢いにちょっと引き気味の桃音。
桃音
「は、はひ……」
エプロンをして、材料を並べる桃音。今日作るのは簡単ロールケーキの予定だった。ちょうど佐々木製菓が出しているホットケーキミックスの粉を使うつもりだったので、よかったとホッとする桃音。
雪斗
「この粉で、ホットケーキじゃなくてロールケーキを作るの?」
桃音
「うん。型へ薄めに生地を流して焼くと、案外ちょうどいい厚さになるんだ。ミックス粉ってすごく楽ちんだし、便利で重宝してるよ」
雪斗
「へぇー!」
桃音が材料をボウルに入れていると、雪斗がウズウズそわそわした様子で眺めている。
桃音
「……ミックス粉を入れて、ちょっとだけ混ぜてみる……?」
雪斗
「いいのっ!? やるやるっ!」
桃音
「あ、そおっと入れて……」
桃音の忠告は間に合わず、ボウルに「よいしょー!」と勢いよくミックス粉をぶちまける雪斗。ボフッと桃音に粉のけむりが思いっきりかかる。
雪斗
「うっわぁ!? 桃音ちゃんごめぇん!!!」
雪斗が慌てて桃音を覗き込んだ瞬間、雪斗は先ほどの大騒ぎから一変、目を見開いて固まった(素顔の桃音を眼鏡の隙間から間近で見てしまい、「あれ……もしかして桃音ちゃんってめっちゃ可愛い……?」と思っている)
桃音
「こほ。だ、大丈夫……眼鏡にちょっとだけしかかかってないと思うから……」
桃音はやむを得ず、雪斗に背を向けてから眼鏡を急いで外し、素早くエプロンで拭いて装着し直した。雪斗の方へ身体の向きを戻すと、雪斗は、打って変わって借りてきた猫のように大人しくなっていた。
桃音
(反省してるのかな……?)
桃音
「えーと……どうかした?」
生地が焼き上がるのを待つ間、桃音が生クリームを泡立てているのを、椅子に座ってじっと見つめている雪斗。
桃音
(というか、まだ部活に行かなくて大丈夫なの……?)
雪斗
「……お金持ち高校で料理部にわざわざ入るのってさ、結構変わってるよね?」
桃音
「え? そうかな?」
雪斗
「うん。俺の知ってるお嬢様って、そもそも自分で料理しないし。花嫁修業的な観点でなら、有名なシェフで誰々先生の〜みたいな所へ習いに行ってる」
桃音
「あぁ~そういう人もいるかもね……」
桃音も何となく納得し、同調する。
グラウンドに面している料理部の、開いていた窓から、「雪斗ー!!! いつまで他の部活んとこで油売ってんだー!」と名指しで声が掛かる。
雪斗
「やべっ! さすがに行かないとだ!」
桃音
「佐々木くん、サッカー部に入るんだ?」
雪斗
「そー! 入学前から絶対入ってくれって友達に頼まれててさ! 入学自体が遅れちゃったから、早く部活に来いってうるさくって。今日、着替え持ってきてないのに」
そう言いながら、窓枠に手を掛けると、ひらりと外へ飛び出した。振り返る雪斗。
雪斗
「出来上がったロールケーキ、めっちゃ食べたかったけど、今日は諦める! 桃音ちゃん、ありがとね! お邪魔しましたー!」
桃音
「い、行っちゃった……」
あっという間に小さくなる雪斗の後ろ姿を、ポカンとしながら見送った桃音。
桃音
(そういえば、莉玖くんにお菓子をねだられてもあげちゃダメって言われてたんだった……! タ、タイミング的に丁度よかった……のかな?)
サッカー部の元へ走っていく雪斗。部活に合流してからもニマニマと口元が緩んでいたらしく、先輩にどつかれる。
雪斗
(桃音ちゃんって、俺が知ってるような高飛車なお嬢様感がなくていいな。可愛いくて話しやすいし……これから学園生活が楽しくなりそうだ)
出来上がったロールケーキを丁寧にラッピングする桃音と、生徒会室で仕事中の莉玖が同じタイミングでくしゃみをする。
恋の嵐の予感……?