注意、この脚本は本当です

2話 難しいは当たり前

◯放送室(放課後)
梨里杏が部室で荷物の整理をしているとお、蓮と小雪が部室に入ってきた。

蓮「おつかれーっす……」
梨里杏「おつかれさ……って蓮、隈ひどいけど大丈夫!?」
蓮「ちょっと寝不足なだけだ、気にすんな……」
小雪「蓮ったら、授業中寝てて先生に怒られてたぞ」
梨里杏(ドラマの脚本……そんなに難しいんだ)

部室のドアが開き、顧問の谷川先生が入ってきた。

谷川「よーっすお前ら、元気か?」
梨里杏「あ、お疲れ様です」
蓮「おつかれっす……」
小雪「お、タニセンお疲れっすな」
谷川「ま、いろいろな」

谷川が部室の真ん中に座る。

谷川「んで、次の大会どうするか決めたか?」
小雪「私がアナウンス、梨里杏が朗読。出す番組はなんとラジドラです!」
谷川「お、まじか。ラジドラか、懐かしいな、俺も学生のとき作った」
梨里杏「えっそうなんですか!?」
谷川「といっても俺は強制演者だっただけで、脚本に口出したことはねぇ」
小雪「どこの時代も男不足なんすねぇ」
谷川「まあ学校によるがな」

谷川がスマホにメモをしている。

谷川「俺から教えられることはほとんどないけど困ったら職員室にいるから声かけろよー」

谷川は放送室から出ていった。

梨里杏「相変わらず嵐のように来て去っていく人ですね……」
小雪「まったくだ……さて、お疲れ蓮くんは脚本どこまでできたのかな?」
蓮「あー……2人とも見ても笑うなよ」

蓮は2人に恥ずかしそうにノートを見せる。

梨里杏「……恋愛?」
小雪「……ふぅん、なるほど」
蓮「なんだよ」

梨里杏と小雪はノートをじっくり見る。

梨里杏「うーん、なんだろ、だめってわけではないんだけど、なんかこう……」
蓮「なんだよ、はっきり言ってくれよ」

梨里杏が唸りながら考える。

小雪「ありきたりすぎる、かな?」
梨里杏「そうなんですよね……主人公が幼馴染の女子に恋して、告白するために奮闘して、最終的には結ばれてハッピーエンド……なにか物足りないというか」
小雪「ありきたりが悪いとは言わないけど、上位を狙うとなるとどこかインパクトがほしい……で、蓮。この物語で君は何を伝えたい?」
蓮「あー……強いて言うなら、まずは行動して伝えることが大事、かな……悪い、まだ詰めきれてないわ」

蓮はノートに『伝えたいこと』とメモを書き加える。

梨里杏「にしたってなんで恋愛もの?蓮、そういうの好きだっけ」
蓮「い、いや、別に」
小雪「あ、あれか?高校生らしさってのを意識してみたんだろ」
蓮「そうそう!それだよ」

蓮は少し焦った顔をしている。梨里杏は不思議そうに蓮を見つめ、小雪はどこかニヤニヤと笑っている。

蓮「とにかく!まだ練れてないってことがわかった。ありがとな、2人とも」
梨里杏「困ったらいつでも連絡してね」
小雪「……あ、そうだ!お二方今日の夜、時間ある?通話しながら考えようじゃないか」
梨里杏「私は大丈夫ですが……今じゃダメなんですか?」
小雪「夜の疲れたテンションのほうが面白いもの作り出せることもあるんだよ梨里杏ちゃん……」
梨里杏「は、はあ」

小雪はずっとニヤニヤしている。

梨里杏「じゃあ今日の20時半!グループトークで話し合おうじゃないか!」

◯自分の部屋、梨里杏視点(夜)

スマホの通知が届く。グループトークの通話画面を開く。

梨里杏「お疲れ様です!」
小雪「おつかれ〜」
蓮「とりあえず脚本のデータ共有したんで、いろいろ書き込んじゃってください」

梨里杏は送られてきた脚本データを開いた。

蓮「家帰ったあと誤字脱字と文章表現を少し訂正したくらいなので中身はそんなに変わってないです」
小雪「りょーかい」
梨里杏「でも意外だったなぁ、蓮が恋愛ものの脚本書いてくるなんて」
蓮「べ、べつに良いだろ」
梨里杏「悪いとは言ってないじゃない」
小雪「まあまあ。とりあえずビシバシ書き込んじゃおうじゃないの」

梨里杏は机からメモ帳とペンを取り出す。

梨里杏「高校生らしさか……でも恋愛にする必要ってあるかな?部活でも青春とかで高校生らしさ伝えれそうだけど」
蓮「うぐ」
小雪「梨里杏、去年の春の地区大会のラジドラ聞いたことある?」
梨里杏「全部ではないですが何本かだけ……」
小雪「最優秀賞の作品ね、恋愛ものだったんだよね」
梨里杏「え!?」

梨里杏は驚いてスマホを落とす。

小雪「え、今大きい音なったけど大丈夫?」
梨里杏「だ、大丈夫です!びっくりしてスマホ落としちゃって」

梨里杏はメモ帳に少しメモを書き足している。

小雪「まずは構成からなんだけど……他のラジドラも色々聞いて参考にしたほうがいいかもしれないね」
蓮「あー、やっぱり?」
小雪「支離滅裂ってほどじゃないんだけど、物語の展開が急すぎるのと、波がないんだよね」
梨里杏・蓮「波?」
小雪「そう。今の時点では、ずっと一緒にいた女子が高校に上がって可愛くなって、折角だから告っちゃおって考えて、ほんの少しだけ悩んで最後告白してるだけ……って捉えたんだけど違う?」
蓮「……はい……何も文句ありません……」
小雪「だから全体的に具体性を出して、物語のどこかに波をいれる……ベタな例かもだけど、主人公が他の男と既に付き合ってて……とか」
蓮「けどあんまり入れすぎると時間オーバーしそうだしな……」
梨里杏「7分でしたっけ」
小雪「そうだね、脚本読み合わせたときに6分30秒になればベストかな」
梨里杏「え?なんでですか?」
小雪「それは編集者が1番わかってるんじゃないかな」
蓮「効果音とBGM、それに適度な間がないと番組、作品としてかなり違和感を覚えてしまうんだ。テンポが良い、と間がなくて話の内容がわかりにくいってのは別の問題だからな」
梨里杏「なるほどぉ」

梨里杏はメモに書き足す。

小雪「このさいだ、みんな明日他校のラジドラ作品聞いてみようじゃないか!」
梨里杏「確かに!勉強したいかも」
蓮「ありだな」

梨里杏の部屋のドアがノックされる。

梨里杏母「梨里杏、お風呂入っちゃなさい」
梨里杏「あ、はーい!ごめんなさい、お風呂入らなきゃなので抜けます」
小雪「おっけー、じゃあ明日学校で!」
梨里杏「はい!」

梨里杏は通話から抜ける。

◯蓮の部屋(蓮視点、夜)
小雪「蓮ってば、なかなか趣深いことをするじゃないか」
蓮「は、は!?何が!?」

蓮は顔を赤らめている。

小雪「だってこの主人公のモチーフ、梨里杏だろ?そして、主人公の幼馴染の男子は蓮」
蓮「……はぁ……黙っててくれ、恥ずかしい」
小雪「いやあ、やるねぇ、青春だねぇ」
蓮「……ひかないのか」
小雪「なにが?」
蓮「なにがって……俺の妄想を脚本に落とし込んでるんだぞ?気持ち悪いだろ」
小雪「あくまで私の偏見だが、完全にまともな人間は放送部にいない。それに、もう言ってしまったんだ。やりたいからやる。それが放送部じゃないか」
蓮「小雪……」
小雪「気付いたときはさすがにビビったけどな!ま、私に恋愛相談していると思いながら脚本を書けば良いじゃないか」
蓮「……恥ずかしいな」
小雪「今さらだろう?」
蓮「……はい」
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