罪深く、私を奪って。

罪深く、私を奪って

罪深く、私を奪って



「ねぇ、詩織。お母さんのこの服変じゃない?」
「ううん、素敵だよ。新しく買ったの?」
「そう。買っちゃった」
新しい服を着て無邪気に喜ぶお母さんに、私もゆっくりと笑顔を作った。
お見合いという名の食事会の為にやって来たホテル。
いつもより少し着飾った母は、楽しそうに回転扉からホテルのロビーへと入る。
今頃、石井さんと亜紀さんもどこかで結納をしているのかな。
昨日、あんなに無様に振られたくせに、まだ諦めの悪い事を考えてしまう自分にうんざりした。
「詩織のワンピースも素敵ね。似合ってる」
「ありがとう」
とても真剣に洋服を選ぶ気分にはなれずに、クローゼットの中で一番取り出しやすい位置にあったから手にしただけなんだけど。
「でもこのワンピースなら、髪を上げた方がいいのに」
チェックするようにぐるりと一周してから、お母さんが私の髪に触れた。
「あ、待って!」
私の髪をまとめてあげようとするその手を、慌てて払いのけた。
下ろした胸までの髪を、今日は上げることはできない。
「どうしたの?」
「ううん。なんでもないんだけど……」
首裏の、うなじあたりにつけられた赤い跡を、見られるわけにはいかなくて、私は曖昧に誤魔化しながら自分の髪をそっとなおした。
石井さんは狡い。
遊びでも気まぐれでも、私を必要としてくれないのなら、こんな跡を付けないでほしかったのに。
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