罪深く、私を奪って。
それで広報部の沼田さんが、仕事中の私の様子を撮りに、大きなカメラを持ってやって来たのだ。
正直、写真撮られるのも目立つのも、苦手なのになぁ。
往生際悪く心の中でそんな事を思っていると、
「の、野村さん!」
カメラを首から下げた沼田さんはごくりと息をのみ込み、まるで意を決したように上擦った大きな声で私の名前を呼んだ。
「も、もしよかったら今日仕事の後、ご飯でも……」
広々としたエントランスに響いた彼の声。
その声に、丁度受付の前を通りかかった社員が、驚いたように私たちの事を振り返った。
「すいません沼田さん。仕事中ですし、受付でそういうお話は」
私の職場は会社の受付。
広いエントランスを見渡せる場所に作られた受付カウンターには、社外の人もたくさん来るのに。
そんな場所で突然大声で食事に誘われても……。
「じゃ、じゃあ後で電話します! 携帯の番号教えてくれますか?」
やんわりと断った私に、彼は身を乗り出して話を続けようとする。
困ったなぁ。
こんな話をしているのが、万が一総務部長の耳にでも入ったら、後でたっぷり怒られるのに。
「誘っていただけるのは嬉しいんですけど」
どうやって断ろうと思案しながらなんとなく俯くと、沼田さんの手が視界に入った。
きつく握りしめた掌。
それが小さく震えているように見えて。
それを見た途端、思わず言葉に詰まった。
その時、
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