罪深く、私を奪って。

相当読み込んでるのか、あちこちに付箋が貼られた厚めの雑誌を指差し、石井さんを見上げてたずねる亜紀さん。
その質問に彼は長身を少し屈めて亜紀さんの指差すページを覗き込むと、面倒くさそうにため息をついた。
「あー、別に。どっちでもいい」
「何その適当な答え。ちゃんと真剣に考えてよ！」
やる気のない石井さんの返事が気に入らないのか、亜紀さんは怒鳴りながら持っていた雑誌で彼の肩を叩いた。
その時、ちらりと見えた雑誌の表紙。
ピンクの背景に、可愛らしい女の子がドレス姿で微笑むそれ。
一瞬見ただけでそれがなんの雑誌なのか、すぐにわかってしまった。
石井さんは亜紀さんの攻撃を軽く受け流し、彼女の手から雑誌を取り上げるとため息をつく。
「お前なぁ、会社でこんな雑誌読むなよ」
「なんで？」
彼はその表紙が誰かに見られないように、雑誌をテーブルの上に伏せて置き、そして、意味がわからずぽかんとする亜紀さんを諭すように、彼女の耳元に顔を近づけて言った。
「社内恋愛してるの、会社の奴には内緒にしてんだろ。ばれてもいいのか？」
「あ！　それはやだ！」
石井さんの言葉に亜紀さんは慌てて雑誌を両手で隠すと、今の会話を誰かに聞かれてなかったか、心配するように辺りを見回す。
ちょうど二人からは死角になる場所からその様子を見ていた私は、反射的に顔をそらし早足で歩き出した。
……なんだろう。