罪深く、私を奪って。
背後から聞きなれた声がした。
「あ。永瀬さん」
「亜紀は外回り行ってるからまだだけど、他の女の子は皆もう選んだから。
このミュール、2つ余るんだって」
永瀬さんはいつものあの爽やかな笑顔でそう言った。
そっか。
余るなら、貰ってもいいのかな?
そう思いながらデスクの上のミュールを見る。
どうしよう。
ピンクと黒とスミレ色。
どれも可愛いんだけど、亜紀さんがまだ選んでないんだよね。
亜紀さんだったらきっと一番シンプルな黒を選ぶかなぁ……。
なんて色々考えながら、並んだミュールの前で難しい顔で悩む私を見た永瀬さんは、
「また悩んでる。パッと見て一番好きなのもらっちゃえばいいのに」
と、決められずに考え込む私を笑った。
優柔不断ですいませんね。
そんな事言ったって、迷っちゃうんだもん。
でも、この中で一番好きな色はスミレ色かなぁ……。
「それにしても女の子って得でいいよなぁ。課長、女の子好きだから女子社員にはこのミュールで、俺たちにはマーライオンチョコしか買ってこないんだよ。不公平だと思わない?」
と、永瀬さんが大袈裟に顔をしかめて言った。
そんな話をしていると、
「なんか楽しそうですねー」
「なにしてるんですか?」
賑やかな声が気になったのか、総務部の女の子が二人、入口から中をのぞいていた。
「あ、課長がシンガポールのお土産買ってきてね……」
「うわー、かわいいミュール!」
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