罪深く、私を奪って。
わざわざ車で送ってもらう必要なんてないのに。
永瀬さんはちょっと心配性すぎだと思う。
しかも誰が送ってくれるのかまったくわからないじゃない。
せめてその人の名前くらい教えてくれたっていいのに。
仕事を終えた私は、仕方なく休憩室の隅で永瀬さんが頼んでくれた誰かを待つことになった。

「お疲れ様でーす」
「お先に失礼しまーす」
さすが金曜日。
更衣室で制服から私服へと着替えた女の子たちは、綺麗にメイクを直して笑顔で会社を後にする。
きっとこれからデートだったりするんだろうな。
なんて思いながら、ぼんやりと休憩室のテーブルに頬杖をついていると、不意に煙草の匂いがした。
不思議に思って顔を上げると、そこにいたのは、
「え? 石井さん……?」
涼しげな目で私を見下ろす背の高い男。
「行くぞ」
ぽかんとする私に冷たくそれだけ言うと、彼はさっさと歩き出した。
い、行くぞって……。
永瀬さんが言ってた、車で送ってくれる人って、もしかして石井さんなの?
送ってくれる人の名前を、最初から教えておいてくれなかった永瀬さんの事を恨みたくなる。
よりによって、どうして一番送ってもらいたくない人に頼んじゃうかな、永瀬さんは。
もしかしてわざとか?
嫌がらせなんじゃ……なんて疑いたくもなる。
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