罪深く、私を奪って。
いくら曲者の永瀬さんだって、私と石井さんの間であんな事があったなんて知る筈もないんだから、故意の嫌がらせではないんだろうけど。
「あ、あの! 私送ってもらわなくても大丈夫ですから!」
長い足でどんどん進んで行ってしまう石井さんを、慌てて追いかけてそう叫んだ。
「うるせ……。いいからさっさと行くぞ」
思いっきり不機嫌そうにそう言って、駐車場に向かって歩いていく石井さん。
そんなに不機嫌なら、私を送るのなんて断ってくれたらいいのに。
私だって、石井さんになんて送って欲しくないのに。

なんで石井さんといると、こんなに息苦しいんだろう。
息を吸っても吸っても酸素が足りないと、心臓はどんどん鼓動を早める。
昨日、永瀬さんに送ってもらった時にはあっという間に感じた会社から家までの時間が、今日は何倍にも長く感じた。
助手席でシートベルトをきゅっと握りしめ、外の景色を見ながら深呼吸を繰り返していると、
「変なメールが流れてるんだって?」
運転席の彼が前を向いたままぽつりと言った。
石井さんから話しかけてくれたことに少し驚きながら頷く。
「あの……石井さんも、メール見ましたか?」
「いや、俺は見てないけど」
ハンドルを握りながら、私の方なんて見ずに淡々とそう言う石井さん。
久しぶりに近くで見た石井さんは、やっぱりすごくカッコよくて。
見惚れそうになる自分が悔しかった。
「気を付けろよ」
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