Mutter
三日前
小林さん、もう夜ですよ
「死ぬ。死ぬ。」
8時で、ご家族の面会の時間、終わりですからね。
「死ぬ。やだ」
「貴美子、わがままを言わないの」
「わがままじゃ無いもん。みんな悪い。点滴だって、腕に入らないし。腕だってむくし。左腕、こんなに太い」
「小林さん、明日は点滴うまく頑張りましょうね。」
「すみません」
「お母さんは、謝らなくていいの」
「…貴美子、みんなそろそろ休む時間よ。お母さんだって帰らなきゃいけないし。」
「眠剤、処方してもらいます?」
「あの、みんなこんなにわがままなんでしょうか? うちの貴美子だけ…」
「そんな事ありませんよ。入って来た時は皆、極限状態。混乱して当たり前です。むしろ大人しい方のほうが珍しいというか」
「貴美子、眠剤だって」
「どっちでもいい。むしろ、さっきの自動販売機の場所に行きたいんだけど」
「自動販売機!? またお茶飲むの? 貴美子」
「今度は違う! ジュース!!」
「ははははは」
「看護婦さん、笑わないで下さい」
「いいですよ。今夜最後に、一緒に自販機コーナー行って頂いて。帰って来て、買って来た物冷蔵庫に入れてもらったら、親御さんには一旦帰ってもらうように」
「悪いですね。」
「いいんだよ、お母さん」
「じゃあなるべく早めに。申し訳ありません」
夜の病棟の廊下に、車椅子と
痩せ細った女性。
痩せ過ぎている割に、口だけは達者だ。
何だかジュース飲みたい
「葡萄ジュース。右のやつ」
「飲むの? 本当に」
「うん。あとスポーツドリンクがいいな。こっちの、黄色いエネル?」
「エネルゲンね。はい」
「なっちゃんも飲んでみたい」
「いいけど、あっ千円崩さなきゃ」
がしゃん
「沢山買ってもらったね。」
「うん」
「小林さん、なっちゃん飲んでますけど」
「一過性かも知れないから、油断し無いように」
「ええ、やだ。取り憑き!?」
「きゃー」
「ナース以下三文、騒がないように」
「だって」
「うん」
「小林さん、さっき私のこと、トトロおばさんとか言って。その後の大立ち回り」
「凄かったですよね。」
「私には、神が見える!」
「あれは女優」
「名演」
「傑作」
「あとは夜勤かあ」
「我々凡人は、夜食夜食♪」
いつも通りに更けてゆく、病棟の夜
夏の暑さ
「あっ小林さんからナースコール」
「お母さんのご帰宅は? 確か?」
「看護婦ー!!」
「何?」
「なにじゃ無い! 小林さんが、意識混濁。」
「すいません、さっき私が、歯磨きの後片付けをしていたら…」
「お母さん、こういう時に」
「いらして良かった」
「貴美子がさっき、睡眠薬を飲め無いとか言って、注射に換えてもらったんです。そして気付いたらこう。何かアレルギー?」
「小林さん。小林さーん。あっやっぱり。ドクター呼んで来て」
「塩原医師!」
「あっ例の。ちょい待ち」
小林貴美子の病室に、一人の医師が、駆け込んで来た
「あっ先生」
白衣の男性が、ぱぱっと意識状態を確認すると
「良くないねー。成人上量、目いっぱい盛ったでしょ。体重が半分なんだからね。見てね。」
「でも、処方箋で、」
「ああ成程」
「申し訳ありません」
「なるたけね、◯◯と◯◯と◯◯。気を付けてね。」
難しい医療用語を、二三まくし立てると、風のように去って行った
私は
あな
あらためよ
あな
あらためよ
真美! 真美!
死んだの?
死なないで
お母さーん
可哀想
たった今、入りました情報によると
この付近のコンビニエンスストアで、強盗殺人、
えっNG?
被害が障害者?
ああ近所のH病院の
覚醒剤依存!? こりゃダメだ
被害者未成年、女性と報道します
ええ女性です。女性です。
女性が一人
犯人逃走。ナイフを持ったまま
見えない 聞こえない
匂いすらも無い
私は…
死んだの?
やだ
寒い
やだ
寂しい
やだ…
一人ぼっち
暗い
ここ
どこ?
ふらふら
ふらふら
ふーてんの
ふ
かーごめ かごめ
かーごの中の鳥は
いついつ出会う
夜中の晩に
鶴と亀が滑った
後ろの正面
だあれ?
はあ はあ はあ はあ
あっちは危険だ 行っちゃダメだぞ
足、足が
えーん
えーん
一体どうしたらいい?
一体どうしたらいい?
何が現実で
何が真実で
一体何がダメなのか
あなたは、あんな男に付いて行かなきゃ良かったのよ
知るもんか。
いつもそう。お母さんは、自分の都合ばかり押し付けて
いつも
いつも
お母さん お母さん
おぎゃあ おぎゃあ
私も子供が欲しかった
私も…
やだ
私の手なのに
私の手が、真っ黒
真っ黒に溶けてゆく
指が
折れてゆく
何故
何故
ごめんなさい
お母さん
私は
お母さんには成れない
ごめんなさい
…
いい
いくよ
いいよー
ハピバースデーテューユー
ハピバースデーテューユー
ハピバースデーディア
ハジメちゃん
ハーピバースデー
テュー
ユー
ハジメはね、ロボットが好き
ハジメはね、ヒーローも好き
みんな好き
ハジメが居てあげる
あの赤い灯を
見るんだ
どれもこれも違う
何一つとして
同じでは無い
何一つとして
長く燃えたり
中には
ぱーっと激しく燃えて燃え尽きる
長かったり
短かったり
強かったり
弱かったり
皆同じく
皆同じく?
どれもこれも違って
又
皆同じ
(どっち?)
いいかい?
何が有っても
ここの事を、忘れてはダメだよ
うん
そうだ
僕が行くんだ
そう
僕が行かなきゃ
そう
僕が
僕が
私は
グシ…
そうなのかも知れない
ぐるぐる回る
世界
黄色いパラシュートを、つかんだ
「初めの一歩が大切ですから」
「もう、歩かせて大丈夫ですか? 先生?」
「ええ、大丈夫だと思いますよ。本人の、動こうとする意思が大切です」
「死ぬ。死ぬ。」
8時で、ご家族の面会の時間、終わりですからね。
「死ぬ。やだ」
「貴美子、わがままを言わないの」
「わがままじゃ無いもん。みんな悪い。点滴だって、腕に入らないし。腕だってむくし。左腕、こんなに太い」
「小林さん、明日は点滴うまく頑張りましょうね。」
「すみません」
「お母さんは、謝らなくていいの」
「…貴美子、みんなそろそろ休む時間よ。お母さんだって帰らなきゃいけないし。」
「眠剤、処方してもらいます?」
「あの、みんなこんなにわがままなんでしょうか? うちの貴美子だけ…」
「そんな事ありませんよ。入って来た時は皆、極限状態。混乱して当たり前です。むしろ大人しい方のほうが珍しいというか」
「貴美子、眠剤だって」
「どっちでもいい。むしろ、さっきの自動販売機の場所に行きたいんだけど」
「自動販売機!? またお茶飲むの? 貴美子」
「今度は違う! ジュース!!」
「ははははは」
「看護婦さん、笑わないで下さい」
「いいですよ。今夜最後に、一緒に自販機コーナー行って頂いて。帰って来て、買って来た物冷蔵庫に入れてもらったら、親御さんには一旦帰ってもらうように」
「悪いですね。」
「いいんだよ、お母さん」
「じゃあなるべく早めに。申し訳ありません」
夜の病棟の廊下に、車椅子と
痩せ細った女性。
痩せ過ぎている割に、口だけは達者だ。
何だかジュース飲みたい
「葡萄ジュース。右のやつ」
「飲むの? 本当に」
「うん。あとスポーツドリンクがいいな。こっちの、黄色いエネル?」
「エネルゲンね。はい」
「なっちゃんも飲んでみたい」
「いいけど、あっ千円崩さなきゃ」
がしゃん
「沢山買ってもらったね。」
「うん」
「小林さん、なっちゃん飲んでますけど」
「一過性かも知れないから、油断し無いように」
「ええ、やだ。取り憑き!?」
「きゃー」
「ナース以下三文、騒がないように」
「だって」
「うん」
「小林さん、さっき私のこと、トトロおばさんとか言って。その後の大立ち回り」
「凄かったですよね。」
「私には、神が見える!」
「あれは女優」
「名演」
「傑作」
「あとは夜勤かあ」
「我々凡人は、夜食夜食♪」
いつも通りに更けてゆく、病棟の夜
夏の暑さ
「あっ小林さんからナースコール」
「お母さんのご帰宅は? 確か?」
「看護婦ー!!」
「何?」
「なにじゃ無い! 小林さんが、意識混濁。」
「すいません、さっき私が、歯磨きの後片付けをしていたら…」
「お母さん、こういう時に」
「いらして良かった」
「貴美子がさっき、睡眠薬を飲め無いとか言って、注射に換えてもらったんです。そして気付いたらこう。何かアレルギー?」
「小林さん。小林さーん。あっやっぱり。ドクター呼んで来て」
「塩原医師!」
「あっ例の。ちょい待ち」
小林貴美子の病室に、一人の医師が、駆け込んで来た
「あっ先生」
白衣の男性が、ぱぱっと意識状態を確認すると
「良くないねー。成人上量、目いっぱい盛ったでしょ。体重が半分なんだからね。見てね。」
「でも、処方箋で、」
「ああ成程」
「申し訳ありません」
「なるたけね、◯◯と◯◯と◯◯。気を付けてね。」
難しい医療用語を、二三まくし立てると、風のように去って行った
私は
あな
あらためよ
あな
あらためよ
真美! 真美!
死んだの?
死なないで
お母さーん
可哀想
たった今、入りました情報によると
この付近のコンビニエンスストアで、強盗殺人、
えっNG?
被害が障害者?
ああ近所のH病院の
覚醒剤依存!? こりゃダメだ
被害者未成年、女性と報道します
ええ女性です。女性です。
女性が一人
犯人逃走。ナイフを持ったまま
見えない 聞こえない
匂いすらも無い
私は…
死んだの?
やだ
寒い
やだ
寂しい
やだ…
一人ぼっち
暗い
ここ
どこ?
ふらふら
ふらふら
ふーてんの
ふ
かーごめ かごめ
かーごの中の鳥は
いついつ出会う
夜中の晩に
鶴と亀が滑った
後ろの正面
だあれ?
はあ はあ はあ はあ
あっちは危険だ 行っちゃダメだぞ
足、足が
えーん
えーん
一体どうしたらいい?
一体どうしたらいい?
何が現実で
何が真実で
一体何がダメなのか
あなたは、あんな男に付いて行かなきゃ良かったのよ
知るもんか。
いつもそう。お母さんは、自分の都合ばかり押し付けて
いつも
いつも
お母さん お母さん
おぎゃあ おぎゃあ
私も子供が欲しかった
私も…
やだ
私の手なのに
私の手が、真っ黒
真っ黒に溶けてゆく
指が
折れてゆく
何故
何故
ごめんなさい
お母さん
私は
お母さんには成れない
ごめんなさい
…
いい
いくよ
いいよー
ハピバースデーテューユー
ハピバースデーテューユー
ハピバースデーディア
ハジメちゃん
ハーピバースデー
テュー
ユー
ハジメはね、ロボットが好き
ハジメはね、ヒーローも好き
みんな好き
ハジメが居てあげる
あの赤い灯を
見るんだ
どれもこれも違う
何一つとして
同じでは無い
何一つとして
長く燃えたり
中には
ぱーっと激しく燃えて燃え尽きる
長かったり
短かったり
強かったり
弱かったり
皆同じく
皆同じく?
どれもこれも違って
又
皆同じ
(どっち?)
いいかい?
何が有っても
ここの事を、忘れてはダメだよ
うん
そうだ
僕が行くんだ
そう
僕が行かなきゃ
そう
僕が
僕が
私は
グシ…
そうなのかも知れない
ぐるぐる回る
世界
黄色いパラシュートを、つかんだ
「初めの一歩が大切ですから」
「もう、歩かせて大丈夫ですか? 先生?」
「ええ、大丈夫だと思いますよ。本人の、動こうとする意思が大切です」