オオカミ男子の恩返し。

プロローグ


 あの頃、私は最強だった。

 曲がったことが大嫌いで、だれかがいじめられて泣いてたら、もうカーッて頭に血が上って、相手がどんなに大きくて強い男の子でも、ちゃんと謝るまで許さなかった。
 自分のこと、スーパーヒーローかなにかと勘違いしてたんじゃないかと思う。
 幼稚園の頃の話で、ほんと笑っちゃうんだけどね。

 特に心配だったのが、クラスで一番小さな男の子。
「ナルセ ワタル」っていう名前で、みんなから「ワタちゃん」って呼ばれてた。
 目がクリクリしてて、子犬みたいにかわいくて、でも泣き虫で。
 何度も他の男の子に泣かされてるのを止めに入ってたら、いつの間にかいっしょにいる時間も増えて。
 すごく頭のいい子で、生き物のこととかよく知ってて、いろんなことを教えてくれたなぁ。

 で、そのワタちゃんが、ある日とつぜん言ったんだ。


「ねぇ、なずなちゃん。『結婚』って知ってる?」

「知ってるよ、もちろん」

「だよね。今、日本の法律では、男の人は18歳、女の人は16歳になったら結婚できることになっている」

「へー」

「でもたぶん、ボクたちが大人になるころにはきっと、どっちも18歳からになると思う」

「ふうん」

 なんの話なのか、あんまり興味も持てずに、そろそろあっちの遊具で遊ぼうかな、なんて考えていたら。
 ワタちゃんは、ちょっと真面目な顔で私の目を見た。


「ボク、ぜったいに強くてカッコイイ、最高の男になる。なずなちゃんを守れるくらい。そしたら……、なずなちゃん、ボクと結婚してください」

「え」

 私は、きょとんとして、ワタちゃんの顔を見返した。
 結婚。
 お父さんとお母さんの顔を思い浮かべる。
 それから、シンデレラと王子様とか、アニメで見た結婚式とかウエディングドレスとか。
 私とワタちゃんが結婚?
 うーん、と考える。
 でも、他の乱暴な男の子たちより、ワタちゃんといるほうが、ずっと楽しい。

「いいよ」

「え、いいの!?」


「うん。」


「わぁ。やったぁ……」


 ワタちゃんは喜びをかみしめるようにそういって、ふわっとほほ笑んだ。

 あぁ、喜んでくれてよかった。

 単純な私はそう思って、別にそれ以上は深く考えなかった。

 ワタちゃんは小学校に上がる前にどこかへ引っ越してしまったし。


 で、それから約10年後……現在。

 私にとっては、ほとんど忘れかけてたこの約束を、ワタちゃんはしっかりと覚えていたんだ—----。




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