オオカミ男子の恩返し。
再会
川沿いの桜の木に、真新しい緑の葉っぱがゆれている。
春と夏のまんなかの、風が気持ちよくて大好きな季節。
「ふわぁ……」
あまりにも気持ちよすぎるのと、ちょっと睡眠不足なのもあって、思わずあくびが出る。
「あれ。もしかして、寝不足?」
大親友の杏奈が心配そうに私の顔をのぞきこんでくれて、あわてて首を横にふる。
「だいじょうぶ。あのね、図書館で借りた本がめっちゃくちゃおもしろくてさ!」
私はカバンから本を取りだす。
「えーっと……、『まんじゅうの歴史』? なんか分厚くて難しそうな本!」
「ぜんぜん! 知らないことばっかりでさぁ、もう読み始めると止まらなくて……」
そういうと、杏奈がにこっとほほ笑む。
「なずなって、ほんと和菓子のことになると勉強熱心だよね。いいなぁ、そんなに好きなものがあって。和菓子職人の夢、いつかぜったい叶えられるよ!」
「えへへ」
私の名前は小田なずな。中学2年生になったばっかりの、13歳。
背の高さも学校の成績も運動神経もふつうで、特別なところは何もない、ただの中学生。
趣味とか特技を聞かれると、「お菓子作り」って答えてる。
っていっても、クッキーとかケーキとかは作れなくて、私が作るのは和菓子。
実家が和菓子屋で、お父さんに教えてもらって色々作ってるんだ。
将来は、和菓子職人になれたらなぁ、って思ってる。
でも、このことは、親友の杏奈以外には秘密。
だって、学校には、人の夢とか好きなものを平気でバカにしてくる人たちがいるから。
自分の身は自分で守らないと、ね。
「ねぇ、なずな、髪伸びてきたね。ポニーテール、すごく似合ってるよ!」
杏奈がそういって、私はドキッとする。
「ほ、ほんと?」
いつも頭の後ろで1つに束ねている髪。
その束ねる高さを、今日はちょっとだけ高くしてみたんだけど……杏奈ってばするどい。
「それ見たら、雪平先輩も『可愛いな~』って思うよ。うん、ぜったい!」
杏奈がそういってにっこり笑って、わたしのほっぺはぼんっと熱くなる。
雪平先輩、って言葉を聞くだけで、こうなっちゃうの、ほんと恥ずかしいんだけど。
私、部活の先輩に恋をしてるんだ。
で、ちょっとでも「かわいい」って思ってほしくて、色々がんばってるとこ。
でも、今までオシャレなんてしたことなかったから、かわいい髪型、なんて、自分のキャラじゃないないし、ぜんぜん似合わないんじゃないかって思って……ううっ、自信ゼロ。
「恋だなぁ、青春だなぁ。いいなぁ」
と、いってうんうんうなずく杏奈。
杏奈の首が動くたび、肩の上で切りそろえられたサラサラの髪がゆれる。
寝ぐせがついてるとこなんて、見たことない。
保育園からの親友の杏奈は、わたしとは違って昔からオシャレが大好きで、かわいくて、男子にもモテるタイプ。
先週も、隣のクラスの男子に告白されちゃって。
杏奈は、「好きでもない男子に好かれても困る」なんていうけど、わたしはちょっぴりうらやましい。
だれかが自分のことを好きって、どういう感じかな?
いつか、だれかがわたしのことを好きになってくれるかな?
それが、わたしの好きな人だったら……。
そんな想像をすると、頭の中が、キャーって大騒ぎ。
ダメダメ、落ち着け、私。
校門の前まで来て、私はふーっと大きく息をはく。
雪平先輩は、めちゃくちゃカッコよくて、勉強もできて、だれにでも優しくて、いつもキチンとしていて、とにかく素敵で完璧な憧れの人。
そんな先輩に少しでも近づくためにも、勉強も部活もがんばらないと!
よーしっ。
「今日も一日、がんばるぞっっ!」
えいえいおーっと、腕を上げて、それを見た杏奈が安心したように「なにそれ」と笑う。
校門を通り抜け、校舎へと向かおうと歩いていた、そのとき。
外から、わぁっという歓声が聞こえていた。
え、なに?
振りかえると、黒い車が校門の前でとまった。
車の種類はくわしくないけど、黒くてツヤツヤしていて、見たことのないようなカッコイイ車。
そして、扉が開いて、中からできてきたのは……。
「え、芸能人!? カッコイイ!」
すらりと背が高くて、長い脚に小さな顔、大きな目とスッと高い鼻。
この辺では見ない、えらくオシャレなえんじ色のブレザータイプの制服。
そして、そこに立っているだけで、まるでスポットライトが当たっているような、キラキラオーラ。
「だれ!? モデル!?」
「なんでこんなとこにこんなイケメンが!?」
もう、みんなうっとり大注目。
きょろきょろと周りを見回すキラキラ男子。
男の子の視線が、人だかりから校庭のほうに移って、杏奈を見て、わたしを見て……ピタリ、と止まる。
(え?)
男の子の口元がゆるんで……、こっちに向かって歩いてくる!
え、なに!!!
あまりにまっすぐ堂々と歩いてくるもんだから、サーッと人が避けて道ができる。
5メートル、3メートル、2メートル。
私はヘビににらまれたカエルみたいに動けない。
わたしの前まできて、男の子は立ちどまる。
そして。
「なずなっ!!!」
ガバッと抱きついてきた!?
「え!? ちょっと! やめてくださいっ!」
あわてて押し返そうとするけど、男の子の力は強くて、私の身体はすっぽりと包まれてしまう。
「あぁ、なずな、会いたかった……」
会いたかった?
私の名前も知ってるし……この子、ほんとだれ!?
「……やめて、……苦しいっ!」
別に本当は苦しくはなかったんだけど、周囲からの「きゃーっ!!」「え? なになに?」「あの女子だれ? 二年の子?」みたいな声が耳に入ってきて、私はもう一度思いっきり男の子の胸を押して身体を離す。やった、成功。
男の子はそれでもとびきりの笑顔で私を見てる。
「なずな、オレだよ、オレ! 覚えてるだろ?」
「えぇー……」
「あぁー、なずなはぜんぜん変わってない!」
いや、こんなきらびやかな男子、一回でも会ってたら忘れないと思うんだけど。
「あれ、ほんとにわからない? まぁだいぶ変わったからな。成瀬航海。ワタルだよ」
「え!」
ワタル君? ……って、ワタちゃん? うそ!
「あのー、あなたはいったい……?」
横にいた杏奈が、こわごわと尋ねる。
「オレ? オレは、なずなのフィアンセ。婚約者だよ!」
「こ、こここ、婚約者っっ!?」
春と夏のまんなかの、風が気持ちよくて大好きな季節。
「ふわぁ……」
あまりにも気持ちよすぎるのと、ちょっと睡眠不足なのもあって、思わずあくびが出る。
「あれ。もしかして、寝不足?」
大親友の杏奈が心配そうに私の顔をのぞきこんでくれて、あわてて首を横にふる。
「だいじょうぶ。あのね、図書館で借りた本がめっちゃくちゃおもしろくてさ!」
私はカバンから本を取りだす。
「えーっと……、『まんじゅうの歴史』? なんか分厚くて難しそうな本!」
「ぜんぜん! 知らないことばっかりでさぁ、もう読み始めると止まらなくて……」
そういうと、杏奈がにこっとほほ笑む。
「なずなって、ほんと和菓子のことになると勉強熱心だよね。いいなぁ、そんなに好きなものがあって。和菓子職人の夢、いつかぜったい叶えられるよ!」
「えへへ」
私の名前は小田なずな。中学2年生になったばっかりの、13歳。
背の高さも学校の成績も運動神経もふつうで、特別なところは何もない、ただの中学生。
趣味とか特技を聞かれると、「お菓子作り」って答えてる。
っていっても、クッキーとかケーキとかは作れなくて、私が作るのは和菓子。
実家が和菓子屋で、お父さんに教えてもらって色々作ってるんだ。
将来は、和菓子職人になれたらなぁ、って思ってる。
でも、このことは、親友の杏奈以外には秘密。
だって、学校には、人の夢とか好きなものを平気でバカにしてくる人たちがいるから。
自分の身は自分で守らないと、ね。
「ねぇ、なずな、髪伸びてきたね。ポニーテール、すごく似合ってるよ!」
杏奈がそういって、私はドキッとする。
「ほ、ほんと?」
いつも頭の後ろで1つに束ねている髪。
その束ねる高さを、今日はちょっとだけ高くしてみたんだけど……杏奈ってばするどい。
「それ見たら、雪平先輩も『可愛いな~』って思うよ。うん、ぜったい!」
杏奈がそういってにっこり笑って、わたしのほっぺはぼんっと熱くなる。
雪平先輩、って言葉を聞くだけで、こうなっちゃうの、ほんと恥ずかしいんだけど。
私、部活の先輩に恋をしてるんだ。
で、ちょっとでも「かわいい」って思ってほしくて、色々がんばってるとこ。
でも、今までオシャレなんてしたことなかったから、かわいい髪型、なんて、自分のキャラじゃないないし、ぜんぜん似合わないんじゃないかって思って……ううっ、自信ゼロ。
「恋だなぁ、青春だなぁ。いいなぁ」
と、いってうんうんうなずく杏奈。
杏奈の首が動くたび、肩の上で切りそろえられたサラサラの髪がゆれる。
寝ぐせがついてるとこなんて、見たことない。
保育園からの親友の杏奈は、わたしとは違って昔からオシャレが大好きで、かわいくて、男子にもモテるタイプ。
先週も、隣のクラスの男子に告白されちゃって。
杏奈は、「好きでもない男子に好かれても困る」なんていうけど、わたしはちょっぴりうらやましい。
だれかが自分のことを好きって、どういう感じかな?
いつか、だれかがわたしのことを好きになってくれるかな?
それが、わたしの好きな人だったら……。
そんな想像をすると、頭の中が、キャーって大騒ぎ。
ダメダメ、落ち着け、私。
校門の前まで来て、私はふーっと大きく息をはく。
雪平先輩は、めちゃくちゃカッコよくて、勉強もできて、だれにでも優しくて、いつもキチンとしていて、とにかく素敵で完璧な憧れの人。
そんな先輩に少しでも近づくためにも、勉強も部活もがんばらないと!
よーしっ。
「今日も一日、がんばるぞっっ!」
えいえいおーっと、腕を上げて、それを見た杏奈が安心したように「なにそれ」と笑う。
校門を通り抜け、校舎へと向かおうと歩いていた、そのとき。
外から、わぁっという歓声が聞こえていた。
え、なに?
振りかえると、黒い車が校門の前でとまった。
車の種類はくわしくないけど、黒くてツヤツヤしていて、見たことのないようなカッコイイ車。
そして、扉が開いて、中からできてきたのは……。
「え、芸能人!? カッコイイ!」
すらりと背が高くて、長い脚に小さな顔、大きな目とスッと高い鼻。
この辺では見ない、えらくオシャレなえんじ色のブレザータイプの制服。
そして、そこに立っているだけで、まるでスポットライトが当たっているような、キラキラオーラ。
「だれ!? モデル!?」
「なんでこんなとこにこんなイケメンが!?」
もう、みんなうっとり大注目。
きょろきょろと周りを見回すキラキラ男子。
男の子の視線が、人だかりから校庭のほうに移って、杏奈を見て、わたしを見て……ピタリ、と止まる。
(え?)
男の子の口元がゆるんで……、こっちに向かって歩いてくる!
え、なに!!!
あまりにまっすぐ堂々と歩いてくるもんだから、サーッと人が避けて道ができる。
5メートル、3メートル、2メートル。
私はヘビににらまれたカエルみたいに動けない。
わたしの前まできて、男の子は立ちどまる。
そして。
「なずなっ!!!」
ガバッと抱きついてきた!?
「え!? ちょっと! やめてくださいっ!」
あわてて押し返そうとするけど、男の子の力は強くて、私の身体はすっぽりと包まれてしまう。
「あぁ、なずな、会いたかった……」
会いたかった?
私の名前も知ってるし……この子、ほんとだれ!?
「……やめて、……苦しいっ!」
別に本当は苦しくはなかったんだけど、周囲からの「きゃーっ!!」「え? なになに?」「あの女子だれ? 二年の子?」みたいな声が耳に入ってきて、私はもう一度思いっきり男の子の胸を押して身体を離す。やった、成功。
男の子はそれでもとびきりの笑顔で私を見てる。
「なずな、オレだよ、オレ! 覚えてるだろ?」
「えぇー……」
「あぁー、なずなはぜんぜん変わってない!」
いや、こんなきらびやかな男子、一回でも会ってたら忘れないと思うんだけど。
「あれ、ほんとにわからない? まぁだいぶ変わったからな。成瀬航海。ワタルだよ」
「え!」
ワタル君? ……って、ワタちゃん? うそ!
「あのー、あなたはいったい……?」
横にいた杏奈が、こわごわと尋ねる。
「オレ? オレは、なずなのフィアンセ。婚約者だよ!」
「こ、こここ、婚約者っっ!?」