オオカミ男子の恩返し。

京都デート

みんなは理想のデートってある?
私はやっぱり、遊園地デート!
家族や友だちと行くのも楽しいけど、大好きな子とデートで行くのはぜんぜん違うんだろうな。
まぁでもそれはだいぶん仲良くなってからのデートって感じで。
 初めてのデートは、親友カップルといっしょにダブルデートなんてどうかな。
 学校の帰りに制服のままファストフード店に行って、ハンバーグとコーラを注文して、ポテトとナゲットはみんなで分けっこ。
友だちといっしょなら初めてのデートの緊張もちょっとはほぐれるだろうし。
たくさんおしゃべりして、いっぱい笑って、それで、帰り道に二人っきりになったときに、「手、つなご?」なーんていわれちゃったりして。いつもの通学路が、きっとキラキラと輝き出す……。 
(なーんて考えてたのに、どうしてこんなことに)
見あげると、ずーっと高いところに、トンボの羽根の模様みたいな大きな大きなガラス張りの天井。
なんだか頭がクラクラする。
ここは、京都駅。
京都っていったら、神社とかお寺とか古い町並みとかのイメージだったけど、この駅はなんだか……、未来っぽい感じ。こんなに近代的でオシャレな感じだったんだなぁ、とちょっとびっくりしつつ、あちこちキョロキョロしていると。
「おまたせ。仕事終わった」
そういって、成瀬がにこっと笑って戻ってくる。
「え、もう!?」
まだ5分くらいしか経ってないけど?
「うん。資料を渡しにきただけだから」
「それって……」 
わざわざ成瀬が京都まで来た意味ある?
郵便で送ればよかったんじゃない?
まぁ、百歩ゆずって成瀬が来たのはいいとして、私、いっしょに来た意味ある?
 
昨日の成瀬からの電話。
「デートだ」なんていわれて、もちろん好きでもない男の子とデートなんてイヤだから断る気まんまんだったんだけど。
成瀬の執事の椎名さんに、「デートというか、実は仕事で京都に行く用事があるのですが、坊ちゃん1人だと心配なのでついていってやってほしい」みたいなこと言われて。おばあちゃんにも「いいじゃん、行ってやんな」なんて言われちゃって。
なんか変な話だなーと思いながら、ついてきたんだ。
まぁでも、そんなわけだから、これはデートじゃなくて、ただのつきそいってことで……。
そう考えていると。
「じゃ、行くか」
「行くってどこに?」
「ちょっと、行きたいとこあるから、つきあって」
「えー、用事が終わったならさっさと帰ろうよ」
私がそういうと、成瀬は不適な笑みを浮かべる。
「本当にいいのか?」
「え」
「ここは京都。千年の都だぜ?」

「わぁー! わー!」
車窓からの景色に、思わず歓声をあげてしまう。
ぽってりと重たげな瓦屋根の、古びた木造の建物が続く町並み。
いかにも歴史がありそうな立派な欄干の橋に、歴史上の人物の銅像。
かと思えば、オシャレなビルが両側に立ちならぶ大きな道路もあって。
どこにでも、楽しそうな観光客の姿があって、窓の外から目が離せない。
「すぐ帰る、とかいってたくせに、めちゃくちゃ楽しんでんじゃん」
「ん? なんか言った?」
「いや別に」
そうこうしているうちに、車は山道に入り、竹林を通り抜けたところで止まった。
目の前には、むき出しのコンクリートに、ところどころ木材が組み合わされた、大きな建物。
「ここ、美術館とか?」
「入ればわかるよ」
車を降りて自動ドアが開く。
 やっぱり美術館かな。
 オシャレなベンチがあるエントランススペースがあって、その奥の自動ドアを通ったところに……大きなショーケース。
「え! ここ、和菓子屋なの!?」
 ずらーっと横に長いショーケースには、季節の生菓子やら、贈り物用に包装された木箱入りの最中やら、いろんな和菓子がすまし顔で並んでいる。
「そう、ここは、京都の老舗和菓子屋がプロデュースしているカフェ兼アトリエ。やっぱりかなり人気の店らしいな」
 成瀬の言葉に私はうなずく。
ほんと、老若男女いろんな人がショーケースをのぞきこんでいる。
みんな、ワクワクしたようないい笑顔だ。
「さ、行くぞ」
 成瀬がそういって、次のスペースに移動すると、そこは、壁一面がガラスになっているカフェスペースだった。
「すごっ」
 窓側の席に案内されてイスに座って外を見ると、さっき車で通ってきた竹林がよく見えて、明るい光が差しこんできて……もう、ステキすぎる!
「仕事につきあってもらったお礼にごちそうするから、好きなの選んで」
「えっ、そんなの悪いよ」
「遠慮するなよ」
 成瀬が、メニューを広げて見せてくれる。
 うわぁ……、どれもおいしそう……。
「ちょ、ちょっと待って、うーん、抹茶パフェかな。いやでも、せっかくだから、季節の上生菓子と抹茶のセット……。え、自家製あんこのせ抹茶パンケーキ! うーん、決められないっっ」
 なぁんて頭を抱えていると。
「じゃあ、これと、これと、これとこれと、これ、ください」
 やってきた店員さんに、どんどん注文する成瀬。
「いや、多くない!?」
「なずななら、ペロッと食べられるだろ」
「いくら私でも、さすがにこんなには……」
 和菓子は大好きだけど、べつに大食いできるってわけじゃないからさ。
 って思ったけど……、テーブルの上に、パフェと上生菓子と抹茶とパンケーキが並ぶと、もう天国みたいで。
「わっ、これおいしいっっ!」
 温かいふわふわパンケーキを口に入れたとたん、思ったよね。
 うん、食べれちゃう、全部。
「ほんと、いい顔するな」
「だって、どれも本当においしくて。あ、このパフェ、ほんと盛りだくさんにいろいろ入ってる! ちょっと、メモしていい?」
「もちろん」
 私は、カバンの中から小さなノートとボールペンを取りだす。
 なにか、なにか新商品の参考にできれば……。
 お菓子のメモを終えて、顔をあげると、隣のテーブルの4人組の女の子たちの笑顔が見える。
 高校生くらいかな? みんなお抹茶と上生菓子のセットを頼んでいて、ワイワイうれしそうに盛りあがっている。
 その向こうには、着物姿の女の人が、1人でぼんやり窓の外を眺めながら、ほうじ茶パフェを食べている。
 外国人のお客さんも多くて、店内のところどころに飾られた扇とか織物を額に仕立てたものとか茶道で使う茶器とか、そんな小さなアートを興味深そうに眺めている。
「すごいね、京都。『和』って感じのものを、こんなにみんな楽しんでて」
 私がそういうと、成瀬はにこっと笑う。
「じゃ、もっと『和』なデートを楽しんじゃう?」

「まぁー、ほんと可愛らしい。よくお似合いですよ」
 お店の人がそういって、鏡の中の私を見てほほ笑む。
(うわ~、うわ~)
 うすいピンク色に小さな花が散りばめられた着物に、黄色い帯、赤い帯締め。
 髪の毛は後ろでまとめて、大きなお花の髪飾りをつけてもらって、うっすらお化粧までしてもらって。
 鏡の中の自分は、自分じゃないみたい
 ぴょんとはねてしまいたい気分。
「さ、彼氏さん、外で待ってはりますよ。こんなかわいらしい着物姿を見たら、もうデレデレやわ」
「べつに、彼氏では……」
小声でそういいながら外に出ると、先に着付けを終えた成瀬の姿が見えた。
(は、反則だぁ……)
 着物姿の成瀬は、まるでモデルさんみたいで、道行く人が「うわぁ♡」と驚いた顔で見て通りすぎてく。
 その向こうには、成瀬のことをじーっと見て、ヒソヒソ話をする女の子2人組の姿も。
 でも、当の本人は全く気にしてない様子で、スマホの画面を見ている。
「成瀬……」
 こそっと声をかけると、成瀬は顔をあげて、
私を見るなり、「かわいい」といって、くしゃっと笑った。
「うそ」
「めちゃくちゃ似合ってる」
「そんなことない」
「照れるなよー」
「照れてない」
「さ、行くか」
 そういって成瀬が歩きだす。
「え、歩いていくの?」
「あとで迎えに来てもらうことにした。車だと2人きりになれないから」
 そういって、成瀬は腕を伸ばして大きく息をすいこむ。
「たまにはこんなデートもいいな」
「たまには……」
「ふだんはどんなデートをしてるの?」
「んー……。ま、ふつう」
 答えになってるような、なっていないような。
「でも、なずなとだったら、歩くだけでも楽しいな」

 竹林を抜けると、ぱっと視界が開けて、両側にたくさんの店が立ち並ぶにぎやかな通りに出た。
「わぁ~、かわいい!!」
 たくさんの観光客でにぎわう通りの中で、ひときわ人が集まっている、和菓子をモチーフにしたアクセサリーと雑貨のお店。
 三色団子の前髪クリップとか、たい焼きのついたヘアゴム、桜餅の形のポーチ、いろんな和菓子の模様のタオルハンカチとか。
 見てるだけでワクワクしちゃう!
「見て! これ、金平糖のイヤリングだって! かわいすぎる……!」
「いいじゃん、買おうぜ」
「え、でもイヤリングなんてつけたことないし……。耳、痛くないのかな」
「試着してみたら? あ、すみませーん、これ、試着できますか?」
「はい、どうぞ」
 そういって、成瀬が慣れた手つきで耳につけてくれる。
「いいじゃん、めっちゃにあう」
 そういって、鏡で

「か、かわいい……。いや、私じゃなくて、イヤリングが、ね!」
 あわてていいかえると、成瀬がプッと笑う。
「どっちもかわいいでいいじゃん。……すみません、これ、ください。このままつけていきます」
「あ、いいよ! 私、お小遣い持ってきたし、これは自分で買う!」
 あわててお財布を出そうとすると。
「いいって。オレがプレゼントしたいんだから」
 そういって、成瀬がお店の奥のレジに向かう。
 店員のお姉さんが成瀬の後からついていこうとして、いっしゅん振りかえって私に耳打ちする。
「ステキな彼氏だね」
「えっ」
 私はぶんぶん首を横にふる。
 お姉さんは、ふふっと笑って、店の奥に向かった。

 雑貨屋さんを後にして、私たちはまたにぎやかな通りを歩きだす。
 歩くたび、耳元で金平糖が揺れる。
 なんかすごく……、ワクワクするっ。
 すれ違う人もみんな、楽しそうだし。
 着物姿の人も多いし、お団子とかおせんべいとかを食べ歩きしてる人もいるし、なんだか和風のテーマパークの中にいる気分。
食べ歩きって楽しいよね。さっきあんなに食べたとこだけど、ちょっと歩いたら私のお腹はもう準備万端というか、臨戦態勢というか……。
「すごい! ジェラート屋さん。桜餅味に、ヨモギ大福味だって……」
「いいじゃん、食べよう」
「え、いいの? 成瀬、お腹すいてる?」
「オレはさっきそんなに食べてないから」
 たしかに。そうだった。
「んー、どれにしようかな。うわー、きなこも気になるなぁ。あぁでも、勉強のために抹茶あずき味とかも……」
「じゃあ、その4つで。……すみません」
 成瀬が店員さんに注文している間に、私はお財布の中から千円札を2枚出す。
 おばあちゃんが今日のために特別おこづかいをくれたから、私のお財布の中にはいつもよりたくさんお金が入ってるんだ。
「べつにいいのに。京都についてきてもらったお礼だから」
「ダメだよ。じゃあこれは、イヤリングのお礼!」
 ジェラート屋さんのお姉さんが「はいどうぞ」と出来上がったジェラートを2つ差しだしてくれて、思わず目が♡になっちゃう。
 ジェラートの上に京都の有名なお菓子、八つ橋が乗ってる!
 おいしいんだよねぇ、これ♡
 そして、肝心のジェラートも。
「わーっ、ほんとに桜餅の味! おいしい! ヨモギ大福は……、ヨモギの香りがいい! そして、求肥が入ってるのか、なるほど……」
「じゃ、こっちもどうぞ」
 そういって、成瀬が自分のジェラートを差しだしてくれる。
「え! 悪いよ、そんなの! 成瀬、まだぜんぜん食べてないのに!」
「遠慮するなって。はい、まずはきなこ味。あーん」
 成瀬がそういって、スプーンですくって私の口元に。
 えぇぇ。
 なんか、ちょっと恥ずかしいんだけどっ。
 でも、きなこジェラートの誘惑には勝てなくて。
 パクッと口に入れると。
「お、おいしいっ」
「じゃ、こっちも。抹茶味」
 パクッ。
「あー、おいしい」
「よかったな。……ん、たしかにうまい」
 成瀬もジェラートを口に運んで。
(こ、これは、間接キスというヤツでは……)
 いや、考えすぎ。違う違う。
 杏奈ともよくやってるし!
 そんなことを考えていると、急にくいっと腕をつかまれて。
「えっ」
「自転車、危ないからこっち歩いて」
「あ、ほんとだ……」
考え事してたから、前からけっこうなスピードでやってくる自転車に気づかなかった。
「さ、行くぞ」
 私たちは再び歩きだす。
 耳元でゆれる金平糖。
 成瀬のすらりと高い身体が、私を守るように寄りそってくれて。
「……これ、桜餅味、おいしいよ。食べる?」
 私がピンク色のジェラートをすくって差しだすと、成瀬が少し身をかがめてパクリ。
「うま~」
 にっこり笑顔。
 これはやっぱり、デートなのかもしれない。だって。
(なんか、世界がキラキラしてる)
 いいお天気だから、ステキな場所だから、それもあるけど。
 となりを歩いているのが、私のことをすごく大切にしてくれる男の子だから。
 いっしょにいると、なんだかワクワクして楽しいから。
「さ、次はなに食べる?」
 ジェラートを食べおえた成瀬が、
「え、もう?」
「さすがに次はしょっぱいヤツがいいな……。あ、京都コロッケだって! どう?」
「いいね! 食べたい!!」
 私、実は揚げ物も大好き!!
 しかもコロッケ! 大好物♡
 京都コロッケって、なにが入ってるんだろう……、ウキウキした気持ちでお店に向かって歩き出す、と。
「痛っ」
 右足の人差し指に痛みが走って、思わずしゃがみこむ。
「どうしたっ!?」
 成瀬が振りかえって、同じようにしゃがんで私の足元を見る。
 げげっ。
 右足の人差し指が草履の鼻緒にスレて皮がむけたみたいで、白い足袋が赤く染まっている。
「うわー。やっちゃった。血が出てる」
「ムリしてたんだろ、気がつかなくて悪かった」
「ううん、なんか楽しすぎて足が痛いの気づかなかった」
 ポロっとそういって、はっと顔を上げる。
 成瀬がニヤリと笑う。
「いや、それかわいすぎる。とにかく、乗れ」
 そういって、成瀬は背中のこっちに向ける。
「はい?」
「決まってるだろ。おんぶ」
「はいーーー!? いや、だいじょうぶ! 自分で歩けるし!」
「いいのか? 足袋どころか草履まで血で汚すことになるぞ」
「うっ」
 私は成瀬の背中を見つめる。
「ほら、早くしろ。新幹線、間に合わないぞ」
 せかす成瀬の声。もー、それいうのズルい!
(うーっ。えいっ)
 わたしは成瀬の首にしがみつく。
「よし、行くぞ」
 重くないのかな?
そう思ったけど、成瀬はすっと立ち上がって歩きだす。
そうか、スポーツもできるっていってたし、力も強いのか。
 温かい成瀬の背中。
どくん、どくん。
 心臓の音が成瀬の背中に伝わりそうで、それをごまかしたくて、私はおしゃべりになる。
「ごめんね、重いでしょ」
「ぜんぜん。そんなことより、足、まだ痛むか?」
「ううん、ぜんぜん」
「それはよかった」
 あ、会話、終わっちゃった。
 なにか他に話すこと……。
「……成瀬は、なんでそんなに優しいの?」
「決まってるだろ。なずなのことが、好きだから」
 即答。
「うそ」
「うそじゃない」
「ぜったいうそだよ……」
 私、ドキドキを隠そうと笑いながらいう。
「だって、成瀬は……、頭よくてお金持ちで、私はフツーすぎて、好きになる理由ないじゃん」
「いやもっと自分に自信を持て」
「だって……」
「なずなを好きになったのは、幼稚園の時だけど、でもそれだけじゃない」
 前の信号が赤になって立ちどまる。
「日本に帰ってきて、いっしょに過ごすうちに……、びっくりしたよ。こんな人間がいるのか!って。ほんと不器用で、茶道だって、人一倍がんばってるのに、ぜんぜんダメで。なんでもソツなくこなすオレとは正反対」
 フッと笑う成瀬。
「……え、まさか悪口いってる?」
「いや違う」
 成瀬が首を横に振る。
「でも。お前はそれでも努力するのをやめない。不器用で危なっかしくて、だけど、ひたむきで、いつでもいっしょうけんめいで。なずなは、昔からぜんぜん変わってないよ」
 信号が青に変わる。
「そんななずなのことが、たまらなく愛しいんだ」
 成瀬のことばが、背中の温かみといっしょに、すっと体に伝わってくる。
「10年前も今も、オレは本気だから。なずなも、オレのこと本気で考えてほしい」
 成瀬のまっすぐな言葉に胸がいっぱいになって、なにもいえなくて。
 私は、こくんと小さくうなずく。
 それが成瀬に伝わったかどうかは、分からなかった。
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