オオカミ男子の恩返し。

ケンカ


 京都から帰って、翌々日の月曜日。
 教室で杏奈に京都でのことを話すと、杏奈は両手をほおに当てて、はぁーーーっと大きく息を吐いた。
「どうしよう、今まで生きてきた中で一番キュンとしてる」
「いや、ほかにもっとあるでしょ」
「ないね。やっぱ最高だわ、成瀬。で、どうするの?」
「どうするって?」
「だって、告白されたわけでしょ。返事しなきゃ」
「返事……」
 そんなの、考えてもなかった。
 返事って、つきあうかどうか、ってことだよね?
「えぇぇ。どうしよう、わかんないっ」
私は頭を抱える。
「成瀬のことは、いいヤツだと思うし、京都もすごく楽しかったけど、でもなんか特殊すぎるっていうか、現実味がないっていうか……」
「あー、まぁわかるかも」
「雪平先輩を好きになったときは、『好き!!』『これが恋だ!』って思ったんだよ。先輩と話すとすごくドキドキするし。でも、成瀬に対してそんな気持ちになったことはなくて」
 だけど、いっしょにいると楽しくて、この時間がずっと続けばいいのにって思って。
 これは恋? これも恋? どれが恋!??
 うーーーっ、わからないっっ!
 苦いお薬を飲んだあとみたいに苦しんでいる私を、杏奈はヨシヨシとなでてくれて。
「成瀬、どう考えても本気だよ。相手がそんなに真剣になずなと向きあおうとしてくれてるんだからさ、なずなも、難しくてもちゃんと答えを出さなきゃ、ね」
 杏奈がそういって、私は小さくうなずいた。
 
 放課後になって、部室に行くと、成瀬がたくさんの箱を並べて荷ほどきをしていた。
茶道部の先輩や仲間たちがワクワクした表情でそれを見てる。
「うっわぁぁ! これ、宇治の福徳園の抹茶! 超高級品じゃん」
「こっちはもっとだよ、幻の抹茶、「雲海」。これ、100グラム5万円とかってどこかで見た気がする」
「これ、飲んでいいの!?」
「どうぞ、どうぞ。オレとなずなで京都デートに行ってきたんで、これ、お土産です」
「え、京都!? 成瀬君となずなちゃん、2人で、ってこと!?」
 副部長のマリ先輩が目を丸くする。
 成瀬はフッと得意げに笑う。
「まぁ、そういうことです」
「ってことは、つまり、2人は……」
 付きあってるってこと!? きゃーっとマリ先輩が声を上げて、私はずずいっと2人の間に割って入る。
「違います。ただの友達です!」
「え、そうなの? なぁんだ。成瀬君&なずなちゃんカップルって、なーんか萌えると思ってたのになぁ」
 残念そうなマリ先輩に、成瀬が不敵な笑みを浮かべる。
「まぁ、時間の問題です」
「そうなの? 楽しみにしてる!」
「ご期待に添えるようにがんばります」
もう! 勝手なこといって!
じとーっと成瀬をにらむけど、成瀬は全く気づいていない。
「抹茶だけじゃなく、いろいろ届いてるぞ、ほら」
 そういって、成瀬が、漆塗りの箱のフタを取ると。
「うわぁ……」
 部員のみんなの感嘆の声。
そこには、色とりどりの上生菓子がぎっしりと並んでいる。
「今朝、椎名が京都で買ってきた。賞味期限が当日中だから、デートの日に買えなくて」
「えっ」
 私は椎名さんの顔を思いうかべる。
 椎名さんって、うちのおばあちゃんと同い年くらいかな?
 朝から和菓子買うために京都に行って帰ってくるって……、人使いの荒いヤツの元で働くって大変だ。
「わぁ~。これは美しいねぇ」
 うしろからのんびりした美声が聞こえて、はっと振り返る。
「あ、雪平先輩。これ、オレとなずなの京都土産です。オレたち、京都デートしてきたんで。楽しかったなぁ。な、なずな」
 ニヤニヤする成瀬と、にこにこ顔の雪平先輩。
 あぁぁ、誤解しないでっ。
「ち、ちがうっ。これには深いわけが……」
「あー、なずなの着物姿、かわいかったなぁ」
「そうなんだ。なずなちゃん、着物似合いそうだもんなぁ。それはちょっとヤキモチやいちゃうなぁ」
 ふわっと落とされた、爆弾。
 思いがけない言葉に、私の体はピキンと固まる。
 冗談だってわかってる。でも。
 ぶわーっとほおが熱くなる。
 ヤキモチ、だって。
「ちょっと、なずな、顔まっか」
 杏奈が耳打ちしてきて、私はさっと後ろを向いて、両手で顔をかくす。
 先輩、変な子だって思ったかな?
 マリ先輩が雪平先輩を呼ぶ。あぁ、ラッキー。
手で頬をあおいで、顔を冷まそうとする、と。
「……なんなんだよ、お前」
 成瀬の不機嫌そうな声。
「べ、べつに……」
「うざっ。社交辞令を真に受けて、バカじゃねぇの」
「そんなの、成瀬にいわれなくたってわかってるし!」
「わかってねぇだろ。あの部長は、お前のことなんか1ミリも好きじゃねぇよ。ただの後輩。いいかげん、現実見ろ」
 うるさいな、って、いつもの感じでいい返したいのに、言葉がつまって出てこない。
 1ミリも好きじゃない。
 知ってる。痛いくらい知ってる。
 先輩は、私のことただの後輩だとしか思ってない。
 でも、好きなんだもん。
 好きな人には、好きになってもらいたいよ。
 1ミリも好きじゃない、なんて、そんな言葉、ひどすぎる。
「ちょっと成瀬、いいすぎ!」
 杏奈がキッと成瀬をにらみつける。
「なずなと雪平先輩のことは、成瀬が口をはさむことじゃないでしょ。っていうか、嫉妬して、好きな女の子に八つ当たりするとか、みっともないからやめなよ!」
「しっと? このオレが? あんなちょっと茶道が得意なだけの普通の中学生に? ありえない」
「いや、逆にしっとじゃなかったら、さっきの急な問題発言、頭おかしすぎるでしょ。」
 ぼぞっとツッコむ杏奈に、成瀬は「ないない」と首を横に振る。
「杏奈ちゃんは、なずなと違って話が分かる賢い子だと思ってたけど、違ったみたいだな」
 成瀬がそういうと、杏奈は「ふんっ」と鼻で笑う。
「私が成瀬を推してたのは、なずなを幸せにしてくれる予感がしたから。でも、今のアンタはなずなを傷つけてる。私、なずなを傷つけるヤツは、どんなヤツだろうとぜったい許さない!」
「杏奈……」
 杏奈は、体中から怒りのオーラを発していて。
で、成瀬は杏奈の顔を見て、それから私の顔を見て、プイッとどこかへ行ってしまった。



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