Roadside moon
「…ロンさん、」
「…ん?」
「私のことって、まだなんか、仲間の皆さんに言ったりとかしてなかった感じ…ですか」
「んー、んふふ…」
「…」
(…そりゃあそうか)
先日、自身の目で確認した“朧”という集団は、それなりに多くの人間を抱えていた。
なんていうか、ロンさんのカリスマ感に引っ張られるまま。
あとは、チームの頭だという人に褒められ、誘われて、私の方も舞い上がってしまって。
なんとなく、頭の隅の方に追いやっていたような自覚はあった。
この人たちが生きている世界。
私が今まで生きてきた世界。
明確に隔てる線があること。
私はまだ、その向こう側に立ててすらいないのだということ。
忘れていた。
表の世界しか見てこなかった私を、彼等が容易く受け入れてくれるわけがないのに。
私はやっぱり無知だ。
無知は罪だと、心底思う。
「…ちゃんと、言っとかなきゃ」
「そうだね…一つ、言い訳をさせてもらうと、今朝、ていうかこんなに早い段階で、羊と鉢合わせるとは思わなくて」
ロンさんが表情を崩し、困ったように笑って言う。
「一番最初に、一番面倒なのに当たっちゃったね」
面倒だと言って、また笑う。
本当に面倒なら、きっと人はそんな風に笑わない。
「…でも」
「…」
「仲間なんでしょ」
「…」
「…ヨウちゃんはちゃんと…なんていうか、ちゃんとさ、ロンさんに着いていきたいんじゃないですか?」
「あはは、なにそれ」
「そりゃ、ぽっと出のよく分からん女、仲間に入れますなんて言われちゃたまったもんじゃないでしょ」
「はは、“ぽっと出のよく分からん女”」
「…私は、あなたたちみたいな、危ない起伏に富んだ人生じゃなかったけど」
「…」
「それでもやっぱり、変わらない居場所、みたいなものは大切だった」
『君も、好きでしょ?バイク』
先ほどロンさんにそう言われた。そういえば頷くの忘れてたなと思い返し、首をゆっくりと縦に振る。
「変わらないものは、多いほうがいいよ」
「…うん」
「だからちゃんと、話さなきゃダメだと思います」
生意気言ってごめんなさい、と最後に付け足した。
「うん…だからまずは、私が話してきます」
「え?なんで、」
「ちゃんと連れてくるから。自分の口で言わなきゃいけないことのほうが多いし」
「…」
「安心してください。いざとなれば、なんか、勝負とかしてみます」
「勝負?」
「バイク担当、ってことは、ヨウちゃんもバイク好きな人なんでしょ?」
「まあ、それなりに」
「じゃあ大丈夫」
口に出してから自分でも思う。
(一体何が大丈夫なんだ)
分からない。
何が大丈夫なのかなんて、私にも全然分からない。
「…だから、ね。待っててください」
分からない、けど。
「…じゃ、任せようかな」
絶対大丈夫。
「ありがとね、サヨちゃん」
ロンさんが笑う。
それだけが答えなのだというような気がした。
「…他人が間に入ると意外と解決が早かったりするんだよ。大船に乗ったつもりで」
「沈みそうだねー」
「泥船じゃないですよ」
私はバカなので。
筋道立てずとも、根拠のない希望に胸を預けることが出来る。バカなので。
「待っててね!帰ったりしないでくださいよ!不安だから!」
「はは、分かってる分かってる」
急ぎ足に部屋を出た。