Roadside moon
この世界では、こんなことが当たり前のことなのか。
そんなに平然と、笑って言えることなのか。
分からない。
生真面目にサーキットを走ってきただけの私には。
「…走りたいと思う?」
「それは」
「もちろん。彼処で」
『彼処』と結さんは窓の外を指差した。
どこからともなくラッパのような音が聞こえてくる。
「…『あわてんぼうのサンタクロース』ですか、これ」
覚えのある音階だった。
クリスマスとは似ても似つかぬその景色に、クリスマスを象徴する童謡が重なる。
完璧なBGM。
「歌まで歌えるんだよ。バイクって」
「…すごい」
「ね。変だけど。すごいよね」
「はい、すごい…」
なんて。
なんて自由に走るんだろう。
法を犯す行為だというのに、それに怯えもせずに。
どうして彼らは笑っていられるのだろう。
ねえ。
──暴走族は、そんなに楽しいの?