Roadside moon
薄々勘づいてはいたけれど。
『副総長』
物騒な三文字が、彼の動きに合わせて見え隠れを繰り返す。
思ったんだよ、本当は。
この人強いなって。私の助けなんていらないのかもって。
もし仮に彼が私の助けなどなくてもあそこを切り抜けられたのだとして
そこを、何故か私が無理に割って入るような真似をしたのだとして。
この件の後処理をするのは、間違いなく彼ら“朧”。
関東最強、もしかしなくとも日本最強。
この単車だって私が何とかできるはずもなく、結局彼等へ放り投げる結果になる。
つまり。
私のとった行動で、目の前のこの人はこれから多大なる迷惑を被るわけだ。
「……」
まともに顔が見られなかった。
当の亜綺くんは変わらず黙って俯いたまま。
…これ、知ってる。
『ごめんね』を言っても何も返ってこないときは
相手が
亜綺くんが、それ以上の憤慨に震えている時。
(…とりあえず謝らなきゃ)
許してもらえるかなんて分からないけれど。
勢いよく亜綺くんを振り返る。
「──あの、ほんと、私っ」
もしかして本当に東京湾とかに沈められちゃうかもしれない。
それが仕方ないか、ともならないけれど。
でも今はとりあえず、謝らなくちゃいけない時だ。
その一心で口を開く。
が。
「…あれ」
時すでに遅し。
“亜綺くん”が姿を消していた。