エリート外科医の蕩ける治療
4.喜んでいいんですよね? side杏子
私の働く『とみちゃんのお弁当屋さん』は、祖母である富子(とみこ)おばあちゃんが始めたお店だ。

元々は祖父母が割烹料亭を営んでいて、残った食材でお弁当も販売していた。料亭が別の場所に移転した際に、お客さんからの熱い要望でお弁当屋さんを残すことになったのだ。

そんな、とみちゃんのお弁当屋さんを継いだのが私だ。とはいっても、まだ祖母は健在で元気に働いているし、私はお弁当屋をメインに働き、たまに実家の料亭も手伝っている。

お弁当屋の道路を挟んで向かいには神木坂総合病院があり、少し先には大学もある。駅からの通り道でもあるため、毎日いろんな人がお弁当を買ってくれる。

お昼のピークを越えようとするころ、自動ドアが開いて数人のお客さんが入ってきた。

「いらっしゃいませー」

「杏子さーん」

やってきたのは、先日合コンを共にした神木坂総合病院の看護師三人。桜子(さくらこ)さんに千里(ちさと)ちゃん、心和(ここな)ちゃん。彼女たちはよくお弁当を買いに来てくれる。

「杏子さん、この前はほんっとーにごめんなさい!」

「私たち、そんなつもりで誘ったんじゃないんです」

「でも、気分悪かったですよね?」

顔の前でパチンと手を合わせてごめんなさいポーズをする。別に何とも思っていないのだけど、でもそうやって謝ってくれることは嬉しいと感じる。やっぱり悪い子たちじゃないんだよなって、思うのだ。

それに、あれがなければ清島さんに治療してもらうこともなかったわけだし……。

ふと思い出してカアアッと顔が熱くなる。何を思い出してるの、私ったら。マスクしてるからバレてないよね?

「あの後、大丈夫でしたか?」

「清島さんに連れ去られたんじゃないかって心配してました」

あはは、と私は苦笑いする。あの後いろいろあったけど、特別診療の話は秘密にしないと呪われるし、そもそも言うつもりもない。言えるわけがない。

「ええっと。清島さんも帰りたくて私をダシに使ったみたいなの。だからお店を出てすぐに別れたよ」

「そうなんですね」

「私たち追いかけなかったから、杏子さん怒ってるんじゃないかと思って」

「まさか。私の方こそあんな形で抜けちゃって申し訳なかったよ」

「気にしないでください」

「また、合コン行きましょう?」

「そうだね」

あははっと曖昧に返事をしながら、お弁当を包む。

清島さんとの特別診療で濡れることができたけれど、今後普通に彼氏ができるのだろうか。ずっとトラウマを拗らせてきた私。それを治したいとばかり考えていて、彼氏の作り方がわからなくなっている気がする。

彼女たちの合コンに参加したら、気持ちが変わるだろうか? 今までとは違う、彼氏を作ろうっていう積極性が私にも芽生えたりする?

「……また、誘ってね?」

「はい、もちろん!」

お弁当を手渡しお代をいただく。
笑顔でやりとりをした私たちにお互い棘はなく、いつもの変わらない日常が流れていった。
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