エリート外科医の蕩ける治療
それから清島さんも常連さんになってくれるのかと思いきや、まったく来てくれなかった。もちろん連絡もない。もどかしい。もどかしすぎる。

私から連絡してもいいのだろうか? だけどよく考えてみれば今は四月で、清島さんも赴任してきたばかり。きっと忙しいんだろうなと想像して、我慢する日々が続いていた。

そんなもどかしさを抱えたある日、パラパラと降ったり止んだりする雨の中、一人やってきたのは清島さん。もうずいぶんお昼の時間はズレている。

「先生……」

「唐揚げ弁当をひとつ」

「はい、かしこまりました」

淡々と、店員と客のやりとり。それなのに、清島さんに会えたことが嬉しいと感じてしまう。どうやら私は清島ロスに陥っていたらしい。もどかしいなんて考えていたことが嘘のように、清島さんに会えただけでその気持ちが吹き飛んでいった。我ながら単純で困る。本当はいろいろとお話したいのに。

「お待たせしました」

お弁当を袋に入れて手渡す。突然清島さんは私の手ごと袋を掴んだ。そして離さない。

「……先生?」

「あー、ごめん、杏子。全然連絡しなくて」

「いえ、あの、お忙しいですよね?」

「まあ、そうなんだけど、その……」

「……また診察してくれるんですか?」

時が止まったように感じた。次に清島さんが口を開くまで、ずいぶんと長い時間見つめ合っていた気がする。

「診察、しようか」

「はい、ぜひ!」

「もしかして、待ってた?」

「待ってたというか、先生忙しいだろうから、私からは声をかけづらいなって思っていました」

「そうか、それは悪かった」

清島さんはふっと微笑む。その笑顔がとても優しくて、私はほっとする。ずっと連絡もないしここにも来てくれなかったから、もしかして嫌われちゃったのかなって思っていたのだ。

また診察してくれることに喜びを覚えて……って待て待て。診察ってことは、また先生とイチャイチャするってことで……。「はい、ぜひ!」って思いきり元気よく返事をしてしまった。やば、恥ずかしい!
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