エリート外科医の蕩ける治療
「いいなー、杏子さん」

「いやまあ、そこは年功序列ってことで許して」

「許します、許しますよ。杏子さんが清島先生とデートしてる妄想するだけでご飯三杯いけます」

「妄想やめて、千里ちゃん」

何を妄想されるのか、恥ずかしくなる。一真さんとデートって、……ん? デート?
ちょっと待って。私、一真さんとデートしたことなくない? 味噌ラーメン食べに行ったくらいじゃん。

「そろそろ秋だし、肌寒くなるにつれて人恋しくなる気がしない?」

「あっ、わかります。クリスマスは彼氏がいてほしい」

「クリスマスまでに仲直りできるかな」

「千里さん、そこまでケンカ引きずったらもう仲直りできる気しないですよ」

「千里ちゃん、胸に彼氏の頭を抱えるのよ。千里ちゃんの色気でメロメロにさせてあげなさい」

「桜子さんならメロメロだけど、私じゃ無理ですってー。て、杏子さん、どうしたんですか?」

黙り込む私を見て、千里ちゃんが首を傾げる。当然千里ちゃんは彼氏とデートしたことあるよね?

「千里ちゃんはデートってどこに行くの?」

「うーん、映画も行ったし水族館も行ったかな。あとはアウトレットでショッピングとか? 杏子さんは?」

「え? どこ、行こう?」

「えっ?」

「杏子さん、デートしてないんですか?」

「いや、そういうわけではないけど……」

なんて、そういうわけなんですけども。ダラダラと冷や汗をかく。ちょっと参考にさせてもらおうと思っただけなのに、このままでは墓穴を掘りそうだ。

「く、クリスマスに向けて、何かないかなーなんて」

苦し紛れに答えると、「ああ、なるほど」とみんな頷く。

「夢が膨らみますねぇ」

「私は二人で居られればどこでもいいかなぁ」

心和ちゃんはピンクの頬に手を当てて、ほうっとため息を吐いた。どこか遠くの世界へ行っているみたいだ。
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