おてんば男爵令嬢は事故で眠っていた間に美貌の公爵様の妻(女避け)になっていたので土下座させたい

役作りは大変

本物の夫婦になると思ったのだけどもう籍は入れているし、「本物って何?」と考える。

九時五分イェルガーが来た。

「さあ、おいで」

セイラは両手を広げそう言った。

「なんだ? 遊んでほしいのか?」
「まぁ、そんなところです」

「夫婦?」

壁の「さとり」のと書かれた紙の下に「夫婦」という紙が貼ってあった。

「本当の夫婦になればウソつかなくて済みますよ?」
「却下、余計な気は回さなくていい」
「そうですか、名案だと思ったんですがね……」

セイラは「夫婦」の紙を剥がして、ぐしゃぐしゃにした。
セイラは目標を立てても光速で諦めが早い。夫婦という目標は一瞬で消えた。

「ふーむ」

さらっと流したが元婚約者の事もあるし、もしかしたら彼女を偲びながら一生過ごすという事なのかもしれない。

(アレでも真面目だし、あり得る)

セイラの中でイェルガーの設定を増やしてみた。
元婚約者を救えなかった彼は、ずっと自分を責め続けているとか、盛り込んでみる。

(うん、それなら仕方ないなぁと思えてきた)

ぼやっと考えていたらイェルガーがすぐ近くにいた、本当に近い。

「ウソが辛いのか」
「まぁ……すすんでつきにいくのは変かと、バレたら面倒ですし」
「そうか」
(相変わらず興味が無さそうだな。自分のことだぞ)

「ならば……本当の夫婦ってなんだ? 山猿の姫はそんなに俺のこと好いてはいないだろう?」
「うっ! そうかもしれない」

ウソに付き合うくらいの情はある。けっこうイェルガーの事考える日もあるけど、共犯者的な何かだ。

「だったら、このまま続けるしかない」
「ですね」

簡単に論破された。


秒速で諦めてセイラはイェルガーから離れ、ぼすっとベッドに勢いよく座った。
部屋にノックの音が響く。返事をすると執事がやって来たようだ。

「旦那様、申し訳ありません」
「いや、今行く。ではセイラ、おやすみ」

セイラはにこやかに手を振った。
九時三十八分、役作りは大変だなと思ってきた。
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